2019 Fiscal Year Research-status Report
ストップトフロー共鳴ラマン分光法によるヘム含有2原子酸素添加酵素の反応機構研究
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19K05698
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
柳澤 幸子 兵庫県立大学, 生命理学研究科, 准教授 (60557982)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ヘムタンパク質 / 共鳴ラマン / ストップトフロー / ジオキシゲナーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒトインドールアミン2,3ジオキシゲナーゼ1(IDO)は, ヘム酵素として唯一の2原子酸素添加反応である, トリプトファン(Trp)主要代謝経路の最初の反応を触媒する誘導タンパク質である. この酸素添加反応は収支として電子とプロトンを必要としない, ヘム酵素としては特異な反応で, 反応機構全容は不明である. 反応機構を解明する上で反応途中に現れる反応中間体の配位構造と基質構造を検出することが大きな手がかりとなるが、いくつかのステップについて報告があるだけである。そこで本研究では, ストップトフロー共鳴ラマン分光法を用い, これまで検出できていない‘反応の一部始終’を, 振動スペクトルとして検出することにより, IDO反応機構全容の解明を目指している. 酸素を基質とする酵素は酸素に対し高い親和性を持ち、反応開始を制御するためにstopped-flow装置に高い嫌気性が要求される。また、ラマン測定では同位体酸素やTrpを用いてスペクトルを得た上で同位体差スペクトルを計算し、基質に由来するラマンバンドの帰属を行う。さらに、微弱なラマン散乱光から解析可能なスペクトルを得るためには積算が必要である。2019年度においては、これらの条件を満たしIDOの酵素反応の開始を制御可能な嫌気チャンバーをstopped-flow装置に組み合わせることに成功した。この装置を用い、酵素反応中のIDOについてStopped-flow吸収測定及びラマンスペクトル測定、さらには同時測定を行うことができた。同位体酸素を用いた測定では、既報スペクトル種について同位体シフトの検出に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要にも示した通り、酸素を基質とするIDOの酵素反応を制御する上で極めて重要な嫌気チャンバーをstopped-flow装置と組み合わせることに成功した。嫌気チャンバーはstopped-flow装置を作成しているユニソク社と共同で設計・作成した。酸素が存在すると吸収スペクトルが変化するジチオナイト水溶液を用いて嫌気状態を調べたところ、酵素反応追跡をする時間スケールにおいて酸素の混入は認められなかった。予定よりも早くに嫌気チャンバーができたことから、IDOの酵素反応をstopped-flow吸収分光法により追跡した。その結果、既報データによく一致し、かつ繰り返し測定において再現性のあるデータが得られた。さらにstopped-flowラマン分光測定では、同位体酸素を用いたデータ収集にも成功し、配位構造を決定する上で重要な酸素同位体差スペクトルの検出に成功した。 また、本研究では反応の一部始終を観察するとともに、反応条件を工夫することで、未検出の反応中間体の検出を試みる。その一つの条件として基質阻害サイトの利用がある。IDOは基質結合部位が二箇所あり、一方が活性サイト、もう一方が阻害サイトと呼ばれ、阻害サイトに基質Trpが結合すると反応を阻害する。活性サイトよりも阻害サイトに対し高い親和性をしめす3-インドールエタノール(3IE)を酵素溶液に添加すると基質Trpが阻害サイトに結合することにより基質阻害を免れるとされている。しかし完全に活性を取り戻すわけではない。基質阻害サイトへの小分子の結合はヘムやヘムポケットの構造にも影響を与えうることから、3IE存在下での酵素反応では律速段階に変化が現れ、未検出の反応中間体の検出が期待できる。2019年度においては、3IE存在下でのCO結合型の吸収スペクトルと共鳴ラマンスペクトルの測定を行ない、COやヘムの振動モードへの影響を調べた。
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Strategy for Future Research Activity |
【2020年度】反応条件を工夫することで、未検出の反応中間体の検出を試みる。例えば重水の使用やpHの変更などの溶液条件の検討に加えて、上述の3IE存在下でstopped-flow吸収分光法により酵素反応追跡を行い、未同定の吸収スペクトルが現れる条件を検討する。また、その時の共鳴ラマンスペクトルを測定する。この間必要に応じて大腸菌の培養とタンパク質の精製を行う。 【2021年度】新たなスペクトル種について同位体基質を用いた共鳴ラマン測定を行い、配位構造と基質構造の検出を行う。
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