2019 Fiscal Year Research-status Report
タイト結合リガンドが誘導する新経路のマクロ飲作用と,それに続く癌重層化の機序解析
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19K05736
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Research Institution | Sapporo Medical University |
Principal Investigator |
幸野 貴之 札幌医科大学, 医学部, 講師 (10374563)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 上皮細胞 / 細胞重層化 / 癌悪性化 / 子宮内膜癌 |
Outline of Annual Research Achievements |
3細胞間の隙間の閉塞を制御するタイト結合タンパク質LSRについて,その発現や局在の変化が,癌を悪性化に導くスイッチであることをこれまでに明らかにしてきた。癌悪性化のうち,細胞の重層化機序は,分化した上皮細胞が脱分化する経路である上皮間葉転換にも関連する。しかし,タイト結合の機能変化から細胞重層化へと至る機序には不明な点が多い。本研究では,薬剤で重層化と単層生育を制御可能なヒト子宮内膜腺癌Sawano細胞を使用した。事前の遺伝子解析により,この上皮癌細胞は,KRas変異を有した(論文作成中)。すなわち,MAPK阻害剤存在下では高分化度を長期間維持できることを見出し,その結果として長期間に安定した単層培養を維持できる実験系の確立に成功した。なお,申請者が作成したSawano細胞実験系では,単層上皮シートから重層化への相転移は可逆的であり,上皮癌の悪性化の機序の一つである重層化を人為的に制御できた。これは,ヒト子宮内膜腺癌の悪性化に関連する分子機序を理解するためのよい疾患モデルとなり得る。タイト結合タンパク質には,occludinなどのように細胞と細胞が辺で接触する領域に局在するものと,3細胞が会合する隙間(3細胞間領域)に局在するものとが存在する。LSRは3細胞間領域に集積する性質を持ち,上述の通り,3細胞間の隙間の閉塞を制御すると考えられている。本研究では,LSR の発現量を制御する目的で,LSRを特異的に認識し,その発現量を低下させる化合物,すなわちLSRリガンドを用いた。単層で生育するSawano細胞にLSRリガンドを添加すると,LSRの細胞内移行とともに,細胞の重層化が観察された。本年度は,超解像度解析を含む共焦点顕微鏡観察や,透過電顕観察,走査電顕観察を行い,LSRの局在変化から細胞重層化に至るまでの詳細な解析を行った。また,この成果の一部を癌の悪性化機序に関する総説として論文にまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,細胞の重層化に至るまでの条件設定を中心に研究を遂行した。とくに,重層化状態におけるタイト結合タンパク質の局在と発現量の変化を解析した。MAPK阻害剤の非存在下条件で,無刺激の定常状態で重層化させたSawano細胞では,3細胞間タイト結合タンパク質LSRは,重層化過程の前後で局在と発現量を変化させた。すなわち,LSRの局在は3細胞間領域から2細胞間領域,および細胞内コンパートメントへと変化し,その発現量は大幅な低下を示した。一方,2細胞間タイト結合タンパク質occludinは,発現量の緩徐な上昇を伴いつつもその局在をほとんど変化させなかった。一方,MAPK阻害剤存在下条件で安定な単層上皮細胞シートを形成したSawano細胞において,LSRの発現量低下を誘導することが可能な因子であるLSRリガンドを添加すると,興味深いことに,接触阻害にもかかわらず,細胞の重層化増殖を誘導することを見出した。このときのタイト結合タンパク質LSRとoccludinの局在や発現量は,無刺激で重層化した場合の変化と同様だった。興味深いことに,安定な単層上皮細胞シートを形成した接触阻害にあるSawano細胞において, 培地に添加したLSRリガンドからの刺激に依存的に細胞が重層化増殖する前に,一過的で急激な細胞の平面運動能の亢進が観察された。この過程を超解像度顕微鏡,および共焦点顕微鏡で観察すると,LSRの3細胞間領域からの排除と細胞内コンパートメントへの移行,及び細胞間隙の一時的な開裂が観察された。これまでに得られた成果をもとに判断すると,本研究は研究計画に沿っておおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画に沿って研究を推進する。令和元年度研究において,LSRリガンド刺激に伴って観察された細胞の形態変化の詳細な解析がほぼ完了した。次年度は,LSRリガンドを添加した後に観察された,3細胞間タイト結合タンパク質LSR,および2細胞間タイト結合タンパク質occludinなどの局在変化の分子機序の解析,およびリガンド刺激に伴って観察された細胞間隙の一時的な開裂に関わる分子機序の解明に取り組む。観察手段としては,超解像度解析を含む共焦点顕微鏡観察や透過電顕観察を用いる。さらに生細胞を用いたライブイメージングにより,安定な単層上皮細胞シートから細胞が重層化増殖するに至る過程の連続観察を実施する。さらに,LSRリガンド刺激に依存的な細胞重層化の前段階において,平面細胞運動能の一過的で急激な亢進が観察されたことから,この過程の速度変化の定量解析とその発生機序の解析に取り組む。
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Causes of Carryover |
研究計画の策定段階では,本年度は物品費と国内旅費のみを計上した。しかしながら本年度研究では,LSRの局在変化と細胞の発癌過程や癌の悪性化の過程に関わる一定の知見と理解が得られ,当初計画にはなかったものの,それらを論文にまとめることになった。それにより,計画研究の一部先送りを行い,それに伴って,消耗品使用等を一部次年度へと先送りすることとした。一方で,論文作成に伴う校閲費や論文投稿料を要した。次年度は,さきの論文作成期間の制定により実施できなかった研究に取り組むべく,本年度先送りした物品費を次年度分と合わせて使用することとした。これに伴って次年度の研究計画が大幅に変更されることはなく,また研究計画全体の研究経費の変更は生じない。
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Research Products
(5 results)