2020 Fiscal Year Research-status Report
タイト結合リガンドが誘導する新経路のマクロ飲作用と,それに続く癌重層化の機序解析
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19K05736
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Research Institution | Sapporo Medical University |
Principal Investigator |
幸野 貴之 札幌医科大学, 医学部, 講師 (10374563)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 上皮細胞 / 細胞重層化 / 癌悪性化 / 子宮内膜癌 |
Outline of Annual Research Achievements |
上皮細胞がもつバリア機能には,侵入を試みる外来異物からの防御だけでなく,分化した上皮細胞が安定で静穏な層状構造を維持することにも重要な役割がある。発癌経路に着目すると,上皮バリアの機能変化は,脱分化経路である上皮間葉転換と密接に関連する。令和元年度研究では,LSRリガンドの投与が,安定で静穏に生育する単層上皮細胞シートに,一過性で急激な平面細胞運動の亢進を誘導することを見出した。令和2年度研究では,この休眠打破に関わる現象の詳細な解析を行った。本年度研究では,前年度と同様に,高分化度を維持する子宮内膜癌細胞株であるSawano細胞を使用した。使用した機器は,所属部門が所有する共焦点顕微鏡(FV300, Olympus)のほか,本学附属教育機器センターが所有する共焦点顕微鏡(LSM780, Carl Zeiss),タイムラプス顕微鏡(AxioObserver, Carl Zeiss)を使用した。本年度研究で得られた知見を概説すると,LSRが単層の上皮構造を維持するために必須のタンパク質であることを明らかにした。これらの結果は,LSR遺伝子のノックダウン実験系,及びLSRリガンドの投与に基づく外来刺激実験系によって得られた。特筆すべき知見として,LSRリガンドの投与実験では,単層でシート状に生育している細胞のうち,運動と増殖が抑制状態,すなわち接触阻害期にある細胞に対してさえも,細胞運動能と細胞増殖能の急激な亢進を誘導することが可能であることを見出した。これらの知見は,発癌過程に停止可能なステップが存在することを示唆するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,運動能と増殖能がともに静穏で接触阻害にあるSawano細胞において,急激に平面方向の細胞運動能が亢進する過程の観察を中心に研究を遂行した。得られた知見として,①Sawano細胞は,低密度条件下では激しく平面方向に運動した(平均運動速度:27.4 ± 4.4 um/h)。②細胞密度が3 x 10^5個/cm^2に達すると,急激に運動能が低下した(平均運動速度:1.2 ± 0.1 um/h)。③細胞増殖試験により,細胞運動能が低下した状態は接触阻害にあることを確認した。ところで,接触阻害にある細胞シートでは,十分に細胞極性が完成し,成熟した上皮バリア機能を持つことが知られている。これまでの申請者らの研究により,上皮バリア機能の維持には,LSRが重要であることを明らかにしてきた。LSRは上皮細胞が3個集積すると,その3重点に集積する傾向を有する1回膜貫通型タンパク質である。そこで,LSR遺伝子 をノックダウンした細胞において,細胞密度が増加する過程での細胞運動能の変化を観察した。その結果,④LSRノックダウン細胞では,安定な接触阻害状態を維持できず,平面細胞運動が低下することなく運動を続けた。長期間の生細胞観察を継続したところ,これらの細胞は重層化増殖を始めた。この現象は,前年度研究で得られた知見,すなわちLSRリガンドの投与によるLSRタンパク質の発現低下に基づく細胞の重層化増殖と相関した。今年度に取得した成果をもとに判断すると,本研究は研究計画に沿って概ね順調であるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画に沿って研究を推進する。令和元年度,および令和2年度研究において,LSRリガンド刺激に伴って観察された細胞の形態変化と,LSR遺伝子のノックダウンによる表現型とが相関する知見が得られた。次年度研究では,当初の計画通り,接触阻害期から運動期への変遷過程を詳細に解析する。まず,形態解析を行う。具体的には,透過電顕を用いて隣接細胞間の接着装置を観察する。また,3細胞間タイト結合タンパク質LSR,および2細胞間タイト結合タンパク質occludinなどの発現量を解析する。さらに,令和元年度研究で得られた,LSRリガンド投与に起因する隣接細胞間隙の一過性の部分開裂現象について,その機序や役割を解析する。これらの知見が得られ次第,新規の発癌開始機序の解明に関する論文としてまとめ,然るべき方法で研究成果を公開する。
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Causes of Carryover |
研究計画の策定段階では,本年度は消耗品費と旅費,及び謝金を計上した。しかしながら本年度研究では,COVID-19にともなう出張規制や遠隔講義等の準備等で発展的な研究に取り組む時間を確保できなかった。さらに,必要な器具等も世界的な供給不足により入手に時間を要し,とくにRNA関係の解析試薬等は全く入手できなかった。それにより,計画研究の一部先送りを行い,それに伴って,消耗品使用等を一部次年度へと先送りすることとした。一方で,本研究に関連する著書の執筆に伴う校閲費や論文投稿料を要した。最終研究年度である次年度では,本年度に先送りした物品費や旅費を次年度分と合わせて使用することとした。これに伴って次年度の研究計画が大幅に変更されることはなく,また研究計画全体の研究経費の変更は生じない。
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Research Products
(2 results)