2019 Fiscal Year Research-status Report
高等植物におけるアミノ酸をシグナルとする遺伝子発現抑制機構の解明
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19K05752
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小西 美稲子 東京大学, 生物生産工学研究センター, 特任講師 (20642341)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 窒素栄養 / 植物 |
Outline of Annual Research Achievements |
高等植物は、窒素を感知してその獲得と利用を亢進させる機構と、窒素の過剰な吸収や同化を防止するための抑制機構の両方を持っており、どちらにおいても遺伝子発現レベルでの調節が行われている。前者については近年飛躍的に研究が進み、硝酸イオンをシグナル分子とする遺伝子発現促進機構の全体像が明らかとなってきた一方で、後者の抑制機構についてはまだ断片的な知見しか得られていない。そこで本研究では、分子生物学的手法により、窒素利用に関わる遺伝子群の発現抑制機構の解明を目指す。 抑制の過程においては、窒素同化の下流の代謝産物であるアミノ酸、特にグルタミンがシグナルとして作用すると推測されている。今年度は、グルタミン添加により発現が強く抑制されるシロイヌナズナの硝酸イオン輸送体遺伝子NRT2.1の発現レベルとプロモーター活性を指標として解析を進めた。NRT2.1プロモーターの欠失解析を行い、翻訳開始点から上流245塩基の領域に、抑制に必要なDNA配列が含まれていることを明らかにした。同定された領域中に見出された保存性の高い新規のGCリッチなDNA配列に変異を導入すると、グルタミン処理による抑制が部分的に緩和された。このことから、このGCリッチなDNA配列が、グルタミンによる遺伝子発現の抑制に関与していると考えられた。この配列に結合する可能性が考えられた転写因子遺伝子の三重変異体では、グルタミン処理によるNRT2.1遺伝子の発現抑制が部分的に緩和されていた。以上から、GCリッチなDNA配列とそこに結合する可能性がある転写因子群がグルタミンによる発現抑制に関与していることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
グルタミン添加により発現が強く抑制されるNRT2.1の発現とプロモーター活性を指標として研究を進めた。NRT2.1プロモーターの制御下でルシフェラーゼ遺伝子を発現させると、ルシフェラーゼ活性はグルタミン添加により強く抑制される。NRT2.1プロモーターを5’側から削った様々な長さのプロモーター断片を用いて同様に解析を行い、翻訳開始点から上流の245塩基中に、抑制に必要なDNA配列が含まれていることが分かった。同定された領域中には、複数の高等植物種のNRT2.1プロモーター配列に共通して見られる新規のGCリッチなDNA配列が見出された。NRT2.1遺伝子のプロモーター活性は、グルタミン処理によって顕著に低下するが、このGCリッチなDNA配列に変異を導入した変異型NRT2.1プロモーターでは、グルタミン処理による活性低下が部分的に緩和されていた。このことから、このGCリッチな短いDNA配列が、グルタミンによるプロモーター活性抑制に関与していると考えられた。次に、シロイヌナズナ転写因子の結合配列を網羅的に解析した論文のデータから、このDNA配列に結合する可能性のある転写因子を探索し、同じ転写因子ファミリーに属する3つの転写因子を候補とした。これらの転写因子の遺伝子発現は、硝酸イオン添加、すなわち窒素の添加によって遺伝子発現が誘導されるため、これらの転写因子は窒素過剰時に何らかの役割を果たしている可能性が高いと考えた。そこで、これらの転写因子遺伝子のT-DNA変異体を入手し、三重変異体を作成して解析したところ、グルタミンによるNRT2.1遺伝子の発現抑制が部分的に緩和されていた。すなわち、これらの転写因子がNRT2.1の発現抑制に関与していることが明らかとなった。グルタミン抑制を担う転写因子の同定に成功したことで、この研究の最初の関門は突破できたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、本年度に同定した転写因子とGCリッチなDNA配列の相互作用を示す。大腸菌を用いて転写因子の組換えタンパク質を作成し、このGCリッチ配列に結合できる能力を持つことをin vitroの実験で示す。またクロマチン免疫沈降法を用い、in plantaで転写因子とNRT2.1プロモーターDNAとの相互作用の有無を調べる。 次に、同定したDNA配列と転写因子群の効果がどちらも部分的なものであったため、他の転写因子との相乗効果について検証を行う。具体的には、今回の欠失解析により同定した領域中に結合配列が存在するNIGT1転写抑制因子との相乗効果を調べる。GCリッチ配列とNIGT1結合配列の両方を変異させた多重変異型NRT2.1プロモーターを持つ形質転換体を作成してプロモーター活性を検証する。また、今回得られた転写因子の三重変異体とnigt1変異体の多重変異体を作成し、グルタミンによるNRT2.1の発現抑制への影響を検討する。相乗効果が見られた場合には、グルタミンにより発現抑制を受ける他の遺伝子への効果について網羅的に解析を行う。 本年度同定した転写因子群の遺伝子発現レベルについては、グルタミン処理による上昇は見られなかったことから、これらの転写因子はタンパク質レベルで活性調節を受けている可能性が示唆された。そこで、グルタミンをシグナルとして感知するセンサーの候補となるタンパク質ファミリーについても解析を進める。これらの遺伝子のT-DNA挿入変異体を入手して一重変異体を確立したのち、多重変異体を作成し、グルタミンによる遺伝子発現抑制への影響を検討する。
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