2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K05754
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
河内 美樹 名古屋大学, 高等研究院, 客員准教授 (40625125)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 亜鉛輸送体 / 植物ホルモン / オーキシン |
Outline of Annual Research Achievements |
シロイヌナズナの野生株はアミノ酸複合体オーキシンIAA-Ala処理によって、根の伸長抑制が起こるが、ER亜鉛輸送体IAR1の欠損株はIAA-Alaへの感受性が弱く根の伸長抑制があまり起こらない。これまでの予備実験でIAA-Ala処理をしたIAR1欠損株と野生株に含まれる遊離のIAA量に有意差がないことが示されていた。2019年度は再現性を確認するために、IAA-Ala処理に加えて、IAA-Leu、IAA-Phe処理をしたIAR1欠損株および野生株に含まれる遊離のIAA量を測定したところ、いずれも野生株で遊離のIAA量の増加が見られるもののIAR1欠損株では増加が見られなかった。また、オーキシン誘導性DR5-GUSレポーター導入株を作成し、IAA-Alaへの反応を調べたところ、野生株背景ではIAA-Ala処理によって顕著なGUS活性の増加が見られたが、IAR1欠損株背景ではGUS活性の増加は野生株背景よりも低かった。さらに、網羅的遺伝子発現解析からIAR1欠損がどのようにオーキシンシグナル伝達に影響するのかを明らかにするためにIAA-Ala処理をした野生株とIAR1欠損株のRNA-seq解析を行った。その結果、IAA-Ala処理により野生株では290の遺伝子の発現が変動し、Aux/IAAやGH3などのオーキシン応答遺伝子の発現上昇が確認された。一方、IAR1欠損株ではIAA-Ala処理によって発現量が変化した遺伝子は90個と少なかった。GOエンリッチメント解析からも、野生株で発現上昇した遺伝子にはオーキシン応答に関わる遺伝子が多く含まれるが、IAR1欠損株で発現上昇した遺伝子には含まれないことがわかった。 以上の結果から、IAR1が欠損するとIAA-アミノ酸複合体処理をしても野生株のように遊離のIAAが増加しないために、オーキシン応答が起こっていないことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画調書に記した2019年度に行う予定であった実験を全て完了し結果を得ることができた。野生株はIAA-Ala、IAA-Leu、IAA-Phe処理によって根の伸長抑制が起こるが、IAR1欠損株では根の伸長抑制が起こらないことが分かっている。これまでの予備実験ではIAA-Ala処理をした野生株とIAR1欠損株に含まれる遊離のIAA量に有意差がないという結果であった。今年度は再現性の確認のため、IAA-Ala以外にもIAA-Leu、IAA-Phe処理をして、野生株とIAR1欠損株に含まれる遊離のIAA量とIAA-Ala、IAA-Leu、IAA-Phe量など、より詳細にホルモン分析を行った。その結果、IAR1欠損株では遊離のIAA量が野生株よりも少なく、IAA-Ala量が多いことが示された。DR5-GUSを用いた解析やRNA-seq解析からも、IAA-Ala処理をした野生株ではオーキシン応答が起こっているが、IAR1欠損株では応答が弱くなっていることが示され、当初の仮説とは異なる結果であったものの、IAR1欠損株ではIAA-Ala処理をしても遊離のIAAの発生量が少ないためにオーキシン応答が起こらず根の伸長抑制が起こらないことを示す整合性のとれた結果を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、IAR1の生理的役割を明らかにするために、IAR1欠損株の表現型解析を自然環境で起こりうる条件で行う。IAR1は側根原基や根端での発現が強く、IAAによる成長制御が報告されている場所と一致する。IAR1欠損株はIAA-アミノ酸複合体処理によって表現型が見られるものの、通常の生育条件では野生株と生育差がみられない。乾燥ストレス、塩や浸透圧ストレスなど、IAAを生成することが知られている各種ストレス条件で、IAR1が欠損することが生育に不利となることがないかどうかを検証する。また、IAR1-mGFP発現株を用いて、ストレスに応答した発現量の変化がないかにつても丁寧に調べる。当初の研究計画では、IAR1欠損によるER内の亜鉛濃度異常を緩和するために、他の亜鉛輸送体の発現量が変化してる可能性も考え、RNA-seq解析でIAR1欠損株で発現量に変化がみられた亜鉛輸送体遺伝子があればIAR1欠損株との多重欠損株を作成して、IAA-Ala処理や各種ストレスでより強い表現型が観察されるか調べる予定であった。しかし今回のRNA-seq解析からIAR1が欠損しても他の亜鉛輸送体遺伝子の発現量に変化がないことが示されたので多重変異体の作成は行わない。 また、亜鉛蛍光プローブを用いた細胞内亜鉛濃度変化の解析も行い、IAR1がERからサイトゾルへ亜鉛を輸送することで局所的にサイトゾルの亜鉛濃度上昇が起こっていないかを調べる。IAA-Ala処理をした時や、IAAを発生するストレスを与えた時、亜鉛処理をした時の変化に特に注視して解析を進める。
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Causes of Carryover |
コロナウィルス の影響で予定していた出張がキャンセルとなったため、その分を今後の実験に必要な消耗品にあてたが、それでも6610円残額が出てしまった。次年度の消耗品購入にあてる。
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