2019 Fiscal Year Research-status Report
糸状菌多糖分解酵素遺伝子発現誘導因子を介した情報伝達ネットワークの解明
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19K05777
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
谷 修治 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 准教授 (80405357)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 遺伝子発現制御 / 糸状菌 / 糖質加水分解酵素 / 情報伝達ネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
糸状菌における多糖分解酵素遺伝子のセルロース系バイオマスに応答した発現誘導因子として、我々は新たにジペプジジルペプチダーゼ DppIV, 推定タンパク質リン酸化酵素SrpkF, UDP-glucose-4-epimerase (Uge5), 隔壁形成因子septation initiation network-complex component (SepM) を同定した。以上の制御因子は、転写因子ManRを介したセルロースに応答した遺伝子発現に関与する因子として同定された因子であるが、その作用機序は不明である。また、各因子の機能を遺伝学的に解析する過程で、dppIV高発現株が酸化ストレス耐性を獲得すること、SrpkF C-末端欠損株では塩ストレス存在下で胞子形成が低下すること、SepM欠損株では細胞壁ストレスに対して感受性になること、Uge5が転写因子ManRを介したセロビオースとマンノビオースに応答した選択的遺伝子発現制御に関与している事を見出した。 糸状菌における多糖分解酵素遺伝子の発現は、炭素源だけでなくpH、光など様々な環境因子に応答して制御されていることが報告されているものの、上述の形態形成や炭素源に応答した選択的遺伝子発現を制御する分子機構は明らかにされていない。そこで本研究では、多糖分解酵素の遺伝子発現に関わる様々な情報伝達経路を紐解き、得られた知見を活用して糸状菌における多糖分解酵素の包括的な酵素高生産方法を開発することを目的とした。そこで本年度は、まず、DppIVを介した遺伝子発現制御へのジペプジジル活性の関与、SrpkFを介した胞子形成制御経路の同定、SepMおよびUge5が関与するセルロース応答経路の同定を目的として研究を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
DppIVの機能を解析するにあたり、DppIVの酸化ストレス応答にペプチダーゼ活性が関与しているかを検証した。野生型DppIVと3つの推定活性残基を単独、二重、三重の組み合わせで変異を導入した改変DppIVを高発現する株を作出した。野生型dppIV高発現株は酸化ストレスを獲得するものの、改変dppIV発現株は酸化ストレスに対して感受性であったことから、DppIVのペプチダーゼ活性が遺伝子の発現制御に関与していることが強く示唆された。コントロール株、srpkF破壊株およびsprkF C-末端欠損株を用いた解析により、SrpkF C-末端欠損株における塩ストレス存在下における胞子形成能低下は、転写因子BrlA以下の転写因子遺伝子の発現が低下することにより起こること、この胞子形成制御遺伝子の発現低下は、SrpkF C-末端欠損株において塩ストレス存在下で菌糸伸長が促進され続けることに起因することが示唆された。SepM遺伝子破壊株を用いた解析により、SepMはseptation initiation component complex componentの一つであるSepLと相互作用すること、SepMとSepLはMap kinaseを介したcell wall integrity経路の制御に関与すること、また、SepMとSepLは転写因子ManRを介したセルロース応答に関与することを遺伝学的に明らかにした。また、Uge5が関わる選択的遺伝子発現制御に関わる転写因子を同定することに成功し、現在同定した因子の機能を解析している段階である。 以上より、当初計画した実験をおおむね順調に遂行できているものと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策は、DppIVの基質、SrpkFのターゲットタンパク質を同定する。これまでに種々のタグ融合DppIVをA. aculeatusで高発現する株を作出してきたが、いずれの株も酸化ストレス耐性を示さなかった。以上よりDppIVの基質はTerminal amine isotopic labeling of substrates法を用いて同定することを目指す。SrpkFのターゲットタンパク質は、enhanced ascorbate peroxidase (APEX2)を用いて過酸化水素存在下でビオチンフェノールを酸化し、生じたフェノキシラジカルが隣接するアミノ酸に結合する性質を利用してSrpkFが作用するタンパク質をビオチン標識後、ビオチン化されたタンパク質をLC-MSを用いて同定する。当初SepMの相互作用タンパク質も同様にAPEX2を用いて探索することを計画していたが、SepMがSepLと相互作用すること、SepL(推定タンパク質リン酸化酵素)が重要な役割を担うことが示唆されたため、今後はSepLのターゲットタンパク質をAPEX2を用いて探索する。Uge5の作用機序解析に関しては、Uge5が関与するセルロースに応答したシグナル伝達の最終段階に関わる転写因子を同定した。今後はこの新たな転写因子の機能を遺伝学的に解析する。またUge5の作用機序に関して新たな知見を得ているため、分子生物学的、遺伝学的に解析を進め、Uge5を介した制御機構を解明する計画である。
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Causes of Carryover |
研究成果をイタリアで開催されたEuropean Fungal Genetics Conferenceにて発表する計画で予算を計上していたが、大学の学事日程と重なり参加しなかったため、次年度使用額が生じた。研究がおおむね順調に進んでいることから、更に研究を展開するために必要な物品費として、また研究成果を論文として投稿する費用に活用する計画である。
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Research Products
(6 results)