2019 Fiscal Year Research-status Report
高効率多目的排出担体創製へ向けた変異型MscLの電気生理、分子動力学的特性解析
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19K05785
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
橋本 賢一 東京大学, 生物生産工学研究センター, 特任助教 (70508382)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | メカノセンシティブチャネル / MscL / イノシン酸 / 分子動力学シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
物質排出担体としてメカノセンシティブチャネルの一種であるMscLに着目し、発酵における物質生産性にこのチャネルが及ぼす影響を検証し、このチャネルの機能を解析し、より発酵生産に適した変異を導入することで、より物質生産に貢献できる排出担体を創製することを目的としている。 開口性が向上するとされているMscLの46番目のグリシンをアスパラギン酸に置換した変異体(G46D変異型MscL)を用い、細胞内の代謝がイノシン酸生産に適するようにデザインされた大腸菌変異株に導入し培養を行ったところ、細胞外イノシン酸濃度が対照株と比較して2倍近く向上した。一方、G46D変異体と同様に開口性が向上するとされているG30E変異型MscLを用いて同様の実験を行ったところ、対照株と比較して物質生産性に明確な差は見られなかった。興味深いことにG46D変異型MscL導入株は対照株と比較して生育速度も向上しており、本株の場合、細胞内代謝の人為的な誘導により核酸生産へ代謝が偏りすぎ、他の生育に必要な代謝を阻害していた可能性が示唆された。生育の向上は物質の生産量を向上させる上で重要な要素である。これらの結果は優れた排出担体の導入は発酵による物質生産性の向上に確かな意義を持つことが示唆された。 澤田博士による研究協力によりG46D変異型MscLの細胞膜包埋全原子シミュレーションモデルを作成することに成功した。このモデルを用い膜張力依存的チャネルの開口をコンピューター上でシミュレーションしたところ、G46D変異型MscLは野生型のMscLと比較して開口しやすくなることが示された。本結果はコンピューターシミュレーションにおいても現実のチャネルの分子挙動を追従できることを示唆し、今後本システムを用いた詳細な開閉メカニズムの解析や物質生産により適した変異の考察に重要な知見を与える強力なツールとなることが予想される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
イノシン酸グアニル酸生産培養の安定化、分析用HPLCシステムの導入、分子動力学シミュレーションの新規計算機の導入と安定的な計算継続環境を構築することに予想より多くの時間を費やすこととなった。また、パッチクランプ装置のまとまった利用時間を取得することができず、電気生理学的解析関連の実験計画の遅れが生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
大腸菌のイノシン酸生産株においてG46D変異型MscLの導入による物質生産性への有用性が示唆されたため、リシン生産株、フェニルアラニン生産株への導入を行い、培養試験を行うことで物質生産性にどのような影響を及ぼすか検討する。 遅れていたG46D変異型MscLの電気生理学的解析により、本変異体がどのような物質を通過させることができるのかパッチクランプ法を用いた解析を行う。 G46D変異型MscLの分子動力学シミュレーションによる開口挙動の分子挙動の解析を進めるとともに、全原子シミュレーションでは達成できないより長時間の分子挙動についてシミュレーションを行うため粗視化モデルを構築し、解析を行う。
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Causes of Carryover |
主にパッチクランプ法による電気生理学的解析の実験計画の遅れとDNA実験系の実験試薬の購入が少なかったことによるものである。次年度において、この電気生理学的解析の遅れを重点的に取り戻すとともに、精力的に新規変異型MscLの取得に着手ることを予定している。このため、パッチクランプ実験用消耗品の購入、DNA実験系試薬の購入、プライマーの合成やDNAシーケンス等の外部委託費に充てることを予定している。
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