2019 Fiscal Year Research-status Report
シロイヌナズナの花粉および気孔発生時の色素体増殖・分配ダイナミクス
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19K05831
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
藤原 誠 上智大学, 理工学部, 准教授 (90332345)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 竜一 琉球大学, 理学部, 准教授 (50322681)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | シロイヌナズナ / 色素体 / 葉緑体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、モデル植物シロイヌナズナを材料として用い、これまであまり開拓が進んでいない「細胞分裂時の色素体増殖・分配」に関する解析を行うことを目的とする。以下に本年度実施した研究のうち、比較的結果のまとまったものについて述べる。 1)植物生組織の葉緑体観察に優れた葉柄部・向軸側と気孔開閉の研究で一般に用いられる葉身部・背軸側の2つについて、孔辺細胞一細胞あたりの葉緑体数を複数の野生型系統を用い比較した。その結果、前者の方が概して後者よりも葉緑体数が多くなる傾向が示された。 2)シュート表皮特異的(PDF1)プロモーターのもとでストロマ局在性蛍光タンパク質を発現する形質転換系統を用い、成熟孔辺細胞の葉緑体数を調査した。本計画以前から研究代表者らが得ていた非形質転換植物や構成的高発現プロモーターを用いた形質転換系統のデータと合わせて解析を行った結果、ストロマ局在性蛍光タンパク質の発現は孔辺細胞の葉緑体の形態・増殖・分布に影響しないことが示された。 3)さらに、気孔を形成する一対の孔辺細胞間で細胞内葉緑体数を比較した。その結果、葉緑体は両細胞でほぼ等数の傾向を示した。しかし、低頻度で葉緑体数の不均衡が生じること(例えば、6個対2個など)、その場合、葉緑体が少ない細胞側の葉緑体はしばしば巨大化を起こすことが判明した。一般に葉緑体分裂が重度に阻害された変異体では、一細胞中の葉緑体減少に伴い葉緑体の巨大化が起こることが知られている。今回、野生型かつ高度な対称性を示す孔辺細胞でも、葉緑体数の不均衡(分配の偏り)によりこのような現象が引き起こされることが示唆された。 4)野生型シロイヌナズナの孔辺母細胞の葉緑体解析を行った。孔辺母細胞の葉緑体は頻繁にダンベル型を呈し、一細胞あたりの葉緑体数は一対の成熟孔辺細胞の葉緑体の総数よりも有意に低いことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)研究計画調書に記した研究内容のうち、野生型シロイヌナズナの孔辺細胞の葉緑体観察を集中的に行い、多くの点で予定を達成することができた。具体的には、植物の葉面部位とストロマ局在性蛍光タンパク質の発現が孔辺細胞一細胞あたりの葉緑体の数に影響を及ぼすか否かという問いに対し基礎情報を得ることができた。また、野生型植物でも共通の母細胞から生じた2つの細胞の間に葉緑体の数とサイズに偏り(不均衡)が生じるという当初の予想を超える知見が得られた。以上の結果のうち、一部のデータは今年度投稿論文2件で発表することができた(「研究発表」の項を参照)。この点では、今年度の「気孔孔辺細胞の色素体解析」は当初の計画通りかそれ以上の進展といえる。 2)孔辺母細胞における葉緑体の観察と計数は、2020年度に予定していた内容だが、1)の進捗が良好であったため今年度実施することができた。今後も実験データを蓄積する必要はあるが、孔辺母細胞から成熟孔辺細胞に至る過程の葉緑体増殖・分配の概要を掴むことができた。この点では、研究の進展は当初の計画以上といえる。 3)一方、今年度予定していた花粉の色素体観察は実施することができなかった。花粉母細胞中の原色素体を調査する内容であったが、年度後半の研究活動の全体的遅延により実験の着手に至らなかった。この点では、研究の進展は当初の計画から遅れている。 以上を総合的に評価すると、本年度は全体としてはおおむね順調に進展していると判断された。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、まず前年度達成できなかった実験を優先的に行い、次に研究計画調書に記した2020年度実施予定の計画を進める。 1)花粉栄養細胞の解析(前年度未達成分):生体蛍光標識した原色素体を対象に観察を行う。既に研究代表者は花粉でストロマ局在性GFPを発現する植物系統を作出しており、実施には問題ないものと思われる。野生型と代表的な色素体分裂異常変異体を用い、色素体の細胞内局在を検証する。 2)気孔孔辺細胞の解析(前年度未達成分):植物培養条件の違いにより孔辺細胞の葉緑体増殖・分配に影響が現れるか否かを、前年度と同様の材料・手法により検証する。 3)花粉栄養細胞の解析(2020年度予定分):野生型と色素体分裂異常変異体を用いて、減数分裂前後の色素体の微細構造解析を開始する。これも上記の材料を用いるため、実施には問題ないものと思われる。 4)気孔孔辺細胞の解析(2020年度予定分):野生型と色素体分裂異常変異体を用いて、孔辺母細胞の葉緑体の数と形に関して観察を行う。既に野生型植物の解析については、2019年度に大部分の作業を終えている。変異体の解析も同様の手法で進める予定である。さらにこの解析には、色素体分裂異常変異体のみならず、葉緑体分化に異常をきたしたシロイヌナズナの変異体リソースも活用することにする。これにより、色素体増殖・分配制御に関する細胞生物学的知見が広く得られることが期待される。
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Causes of Carryover |
予算執行時、見積の消耗品費と請求の消耗品費に差額が生じてしまい、年度末段階で僅かに差額が生じた。研究の計画と実施自体には影響がなく、本差額は次年度消耗品費として使用予定である。
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[Journal Article] Arabidopsis PARC6 Is critical for plastid morphogenesis in pavement, trichome, and guard cells in leaf epidermis2020
Author(s)
Ishikawa H, Yasuzawa M, Koike N, Sanjaya A, Moriyama S, Nishizawa A, Matsuoka K, Sasaki S, Kazama Y, Hayashi Y, Abe T, Fujiwara MT, Itoh RD
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Journal Title
Frontiers in Plant Science
Volume: 10
Pages: 1665
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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