2019 Fiscal Year Research-status Report
抗菌環状ペプチドhypeptinの三次元構造および標的分子認識機構の解明
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19K05841
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
増田 裕一 三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (90617755)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 環状ペプチド / 全合成 / 固相合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
抗生物質hypeptinは、環状デプシペプチド(エステル結合を含む環状ペプチド)骨格と4つのβヒドロキシアミノ酸(β位にヒドロキシ基を有するアミノ酸)を特徴としており、ペプチドグリカン前駆体(リピド中間体)を認識して結合し、細胞壁合成を阻害する。本研究では、hypeptinの特殊な環状構造およびアミノ酸残基が、三次元構造形成および標的分子認識においてどのような役割を果たしているかを、原子レベルで解明することを目的としている。 本研究では、hypeptinの類縁体合成を指向して、固相法を用いた全合成を目指している。2019年度は、ペプチド鎖の伸長と環化の反応条件を検討するため、βヒドロキシ基を含まないアミノ酸で構成される構造単純化類縁体を合成した。トリチルアルコールリンカーを有する固相担体を用いて、アミノ酸をFmoc法により伸長した。D-Ser(4残基目)のアミノ基と、D-Serの側鎖ヒドロキシ基に連結したAlloc-L-Ileのエステル結合との間で起こる副反応(O→Nアシル化転位)を避けるため、先にFmoc-Asn(Trt)-OH(5残基目)を縮合してから、D-Ser側鎖ヒドロキシ基へのAlloc-L-Ile-OHのエステル化を行った。ペプチド鎖の伸長反応の終了後、環状部のL-IleののAlloc基を除去し、続いて弱酸性条件に附すことにより、側鎖保護基を残したまま樹脂からの切り出しを行った。得られた直鎖ペプチドの環化反応を液相で行った後、全ての保護基を強酸性条件で除去することにより、構造単純化類縁体の全合成を達成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度に行った構造単純化類縁体の合成により、D-Ser(4残基目)のアミノ基とD-Serの側鎖ヒドロキシ基に連結したAlloc-L-Ileのエステル結合との間で、副反応(O→Nアシル化転位)が起こることが判明した。この副反応を避けるため、先にFmoc-Asn(Trt)-OH(5残基目)を縮合してから、D-Ser側鎖ヒドロキシ基へのAlloc-L-Ileのエステル化を行う手法を考案した。これにより、2020年度中に全合成を達成する見込みができた。
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Strategy for Future Research Activity |
Hypeptinに含まれる4つのβヒドロキシ酸のうち、β-OH-L-Leuとβ-OH-L-Tyrの合成は既に完了している。残るβ-OH-L-Asnとβ-OH-D-Asnは、cis-およびtrans-エポキシコハク酸の出発原料として用いることにより、全ての不斉のものを合成する予定である。 類縁体は、2019年度に確立した固相合成法により、容易に合成できる。類縁体を合成して抗菌活性を調べるだけでなく、三次元構造を核磁気共鳴(NMR)で解析し、化学構造-三次元構造-抗菌活性の関係を系統的に評価する。特に、環状デプシペプチドのエステル結合をアミド結合に変換した類縁体、βヒドロキシアミノ酸の立体配置が異なる類縁体、βヒドロキシ基がない類縁体を優先的に合成し、三次元構造および抗菌活性への影響を調べることにより、これらの部分構造の役割を明らかにする。
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Causes of Carryover |
2019年度に低温反応装置(750千円)の購入を計画していたが、申請額に対して交付額がかなり少なかったため、購入を断念した。代わりに、エバポレーターで気化させた溶媒を効率よくトラップできる冷却循環装置(150千円)を購入したが、使用額が予定より少なくなった。さらに、2019年度末に参加を予定していた農芸化学会年会(福岡)が中止となり、本研究代表者および大学院生1名の旅費が不要となったことも、使用額が少なくなった原因である。 2019年度中にhypeptinの全合成を達成することを目標としていたが、構成アミノ酸の合成が思うように進まなかったため、試薬や溶媒などの物品費が予定よりも少なくなった。2020年度は、hypeptinの合成計画を見直し、実験を効率化する器具等の購入額を増やすことにより、全合成を達成する予定である。
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Research Products
(6 results)