2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K05858
|
Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
高橋 俊哉 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 専任研究員 (00202151)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | O-抗原多糖 / N-プロリニル-アミノ糖 / トリクロロアセトイミデート誘導体 / 細胞分化物質 / 長鎖不飽和脂肪酸 / エステル配糖体 |
Outline of Annual Research Achievements |
1. 化学合成による新興嚢胞性線維症病原菌P. pulmonicolaのO-抗原多糖の構造解析研究と機能性糖鎖プローブの構築 Pandoraea pulmonicolaは、肺疾患に関わるバクテリアであり、嚢胞性線維症患者の肺から分離された。そのO-抗原はアルキル-N-プロリニル-アミノ糖を含む特異な3糖の繰り返し構造で構成されているが、病原性に関わると推定されているN-アシル部の絶対構造は未決定であった。本年度は、N-アセチル-D-グルコサミンから合成したアリルグリコシドと、D-ガラクトースから得られた2-アジド-D-ガラクトース誘導体をカップリングさせることで構成2糖の合成を検討した。その結果、グリコシルドナーとしてチオガラクトシドを用いると縮合体はわずか10%程度でしか得られなかったが、トリクロロアセトイミデート誘導体を用いると、ほぼ定量的にカップリング反応が進行し、望むアルファーグリコシドが91%の収率で合成できた。得られた2糖は極めて有用な合成中間体と考えられた。 2. 嫌気性菌C.acetobutylicumの細胞分化を制御するclostrienoseの合成とそのプローブ化 Clostridium acetobutylicumの細胞分化物質であるclostrienoseは、D-ガラクトフラノシル-L-ラムノースと長鎖不飽和脂肪酸で構成されたエステル配糖体である。その生合成中間体と推定されるL-ラムノシルエステルも同時に単離されたが、ごく微量のためUVとLC-MSのデータのみから構造が報告されていた。これらの構造確定を目的として、本年度は、共通アグリコン部の合成法の開発を検討した。酸・塩基や光に不安定な不飽和脂肪酸部分を効率良く合成するため、グリニャールカップリングやジュリア反応なども検討されたが、右田・小杉・スティルカップリングが最も良い結果を与えることを見出した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1. 化学合成による新興嚢胞性線維症病原菌P. pulmonicolaのO-抗原多糖の構造解析研究と機能性糖鎖プローブの構築 O-抗原を構成する3糖の繰り返し構造のうち、2糖目までを極めて効率良く合成することに成功している。特に、調製に手間と時間がかかると予想されていた2糖目のビルディングブロックが、市場より入手可能な合成原料より容易に誘導可能となったため合成を効率よく進めることができた点は大きい。さらに、中間体として活用されたトリクロロアセトイミデート誘導体は大量合成も可能なため、プローブ化の際に必要となる量の確保の問題もクリアできたと考えている。使われた保護基の選定にもよるが現在までのところ構造解析にも難点は見当たらず、最終ターゲットの構造解析のための有用な知見が蓄積されつつある。 2. 嫌気性菌C.acetobutylicumの細胞分化を制御するclostrienoseの合成とそのプローブ化 ターゲットである2種のエステル配糖体を合成するにあたり、共通アグリコンを構成する長鎖不飽和脂肪酸部の合成法の開発が最大の問題と考えられる。本年は、まず、グリニャールカップリングやジュリア反応などを駆使して、不飽和ユニットの合成が検討された。この合成戦略は、高価な試薬を用いないことや、操作が簡便なことから合成法の利点は大きかったが、収率や選択性の点からとても実用的ではないことが明らかとなった。一方、右田・小杉・スティルカップリングを活用することで、酸・塩基や光に不安定な不飽和結合ドメイン部が効率良く構築できることを見出せたので、合成の山場は一つ越えることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
1. 化学合成による新興嚢胞性線維症病原菌P. pulmonicolaのO-抗原多糖の構造解析研究と機能性糖鎖プローブの構築 O-抗原構成3糖の3糖目部分である6-デオキシカノサミン誘導体と、そのN-アシル部を構成するラクタム部位の両対称体の効率的な合成法の開発がまず課題である。アシル化された2種のカノサミン誘導体を立体選択的に合成した後、NMRによる構造解析に取り掛かる。ジアステレオマー同士で異性体識別が可能となるような情報が得られれば、最終物の構造決定に有力な武器となるため、詳細なスペクトル解析を進める。 2. 嫌気性菌C.acetobutylicumの細胞分化を制御するclostrienoseの合成とそのプローブ化 共通アグリコンを構成する長鎖不飽和脂肪酸部の合成法がほぼ確立できたので、構成糖の合成に研究をシフトさせていく。モデル実験として、L-ラムノースでエステル化された生合成中間体の合成から始められるが、糖残基中に多数存在する水酸基を保護するためにどんな保護基を用いるかが鍵となる。通常糖鎖合成では、合成の最終段階で接触還元により容易に脱保護できるベンジル基が汎用されているが、本研究のターゲットでは、分子内に複数個の2重結合を含むため使えない。また、糖鎖部分は脂肪酸ユニットとエステル結合により連結されているため、塩基性条件下で除去できるような保護基も用いることができない。そこで、二重結合部分を傷めることのないような温和な酸性条件下で脱保護できるエーテル系の保護基が、検討される予定である。
|
Causes of Carryover |
嚢胞性線維症病原菌O-抗原多糖の合成研究では、合成原料である単糖を大量に購入する予定であったが、数段階先の工程まで変換された保護糖が外国のメーカーより比較安価に入手可能となったため、時間の短縮とともに経費の大幅な節約となった。 また、嫌気性菌の細胞分化物質の合成研究では、不飽和脂肪酸ユニットの合成で高価なパラジウム触媒が多用されたが、これらは微量実験が可能で、さらに触媒効率が当初の予定より格段に良く、少量の試薬の購入で効果を上げることができた。 こういった理由から、かなりの消耗品費を次年度へ持ち越すことが可能となった。また、2つのプロジェクトとも、パラジウム触媒を始めとする高価な試薬が多用される点を考慮に入れて、今年度はかなり合成スケールを抑えた小スケールでの実験が実施されている。そのため、次年度では完成へ向けてスケールアップをはかる予定であるので、試薬の購入費用がかなりかかると予想される。さらに、高価なアセトニトリルを溶媒として用いるHPLC分取精製も計画されているため、これらの消耗品費にも今年度の分が投入される予定である。
|