2019 Fiscal Year Research-status Report
免疫-代謝制御を介したプロシアニジン化合物の慢性炎症に対する抑制効果の解明
Project/Area Number |
19K05893
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
田中 沙智 信州大学, 学術研究院農学系, 准教授 (90633032)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
真壁 秀文 信州大学, 学術研究院農学系, 教授 (90313840)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | プロシアニジン / ガレート / T細胞 / サイトカイン / 解糖系 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞のエネルギー代謝が細胞の機能や分化を調節することが報告され、異常な代謝の状態はがんの発生につながることが知られている。また、生体防御を担うT細胞においても、解糖系が亢進すると、炎症を誘発することが報告されている。我々はこれまでに、ポリフェノールの1つであるプロシアニジンB2(PCB2)にガレート基を付加した化合物において、T細胞の活性化および解糖系を強く抑制することを明らかにした。しかしながら、PCB2ガレートによる解糖系の制御を介したT細胞の機能制御について、詳細なメカニズムは明らかにされていない。そこで本研究では、PCB2ガレートによる細胞のエネルギー代謝調節を介した炎症制御メカニズムを明らかにすることを目的とした。 今年度の実験では、マウスT細胞を用いて、PCB2ガレートのサイトカイン産生および解糖系に対する影響を評価した。マウスより磁気ビーズ法で単離したCD4陽性T細胞に対して、抗CD3抗体および抗CD28抗体(抗CD3/CD28抗体)刺激下でPCB2ガレートを添加し、24時間の培養を行った。培養上清中のサイトカイン濃度を測定したところ、TNF-αおよびIFN-γが有意に低下し、IL-17やIL-10に変化はみられなかった。一方、サイトカインmRNAの発現をRT-qPCRで解析したところ、TNF-αおよびIFN-γのmRNA発現に変化はなかった。また、解糖系への影響を評価するために、培養上清中に含まれる乳酸量を測定したところ、抗CD3/CD28抗体刺激で増加する乳酸量は、PCB2ガレートで有意に低下した。加えて、蛍光標識したグルコースである2-NBDGを用いて細胞の糖取り込みを評価したところ、2-NBDGの蛍光強度が、PCB2ガレートの処理で有意に減少した。以上のことから、PCB2ガレートは解糖系を阻害することでサイトカインの翻訳を抑制する可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
免疫制御において重要な役割を果たすT細胞には、CD4陽性のヘルパーT細胞がある。ヘルパーT細胞の一つである1型ヘルパーT(Th1)細胞はTNF-αやIFN-γなどのサイトカインを産生することが特徴である。Th1細胞は、感染防御や抗腫瘍免疫において重要な役割を担っているが、過剰な活性化は炎症状態となり、慢性炎症を引き起こす原因となるため、適切に制御することが重要である。 まず、マウスより磁気ビーズ法で単離したCD4陽性T細胞に対して、抗CD3抗体および抗CD28抗体(抗CD3/CD28抗体)刺激下でPCB2ガレートを添加し、24時間の培養を行った。培養上清中のサイトカイン濃度を測定したところ、Th1サイトカインであるTNF-αおよびIFN-γが有意に低下し、Th17から産生されるIL-17や、制御性T細胞から産生されるIL-10に変化はみられなかった。一方、TNF-αおよびIFN-γのmRNA発現に変化はなかった。よって、PCB2ガレートはサイトカインの翻訳を抑制している可能性が示唆された。 また、Th1細胞の機能制御に関して、解糖系の関与が報告されている。Th1細胞が活性化に伴い、解糖系関連酵素の活性化が起こり、最終産物である乳酸が産生される。同時に、サイトカインの産生も高まることが知られている。PCB2ガレートの解糖系への影響を評価するために、培養上清中に含まれる乳酸量を測定したところ、抗CD3/CD28抗体刺激で増加する乳酸量は、PCB2ガレートで有意に低下した。加えて、蛍光標識したグルコースである2-NBDGを用いて細胞の糖取り込みを評価したところ、2-NBDGの蛍光強度が、PCB2ガレートの処理で有意に減少した。よって、PCB2DGは解糖系を阻害することでサイトカインの翻訳を抑制する可能性が示唆された。 以上の通り、概ね計画の通り実験が進んでいると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
Th1細胞が活性化すると、下流のシグナルであるmammalian target of rapamycin(mTOR)やHypoxia-inducible factor 1 α(HIF-1α)経路の分子群の発現やリン酸化が増加し、解糖系関連酵素の活性化が起こる。PCB2ガレートが制御する解糖系シグナルを解析するために、CD4陽性T細胞に抗CD3/CD28抗体刺激下でPCB2ガレートを添加し、mTORおよびHIF-1αシグナルの活性化をウェスタンブロッティング法で解析する。また、PCB2ガレートがHIF-1αおよびmTORを介してサイトカイン産生を制御することを確かめるために、それぞれの活性化剤と阻害剤をCD4陽性T細胞に添加したときのサイトカイン産生量を解析する。活性化剤については、PCB2ガレートと共添加した時のサイトカイン産生量を測定し、PCB2ガレートで低下したサイトカイン産生が活性化剤の添加で回復することを確認する。以上の実験により、PCB2ガレートは解糖系シグナルの制御を介して、サイトカイン産生を抑制することが明らかになる。 PCB2ガレートと相互作用する細胞内タンパク質が存在し、解糖系の抑制を介してサイトカイン産生の低下が起こると予想している。細胞内タンパク質の候補としては、mTOR/HIF-1αの上流の分子が想定される。この仮説を証明するために、分子間相互作用解析を行う。PCB2ガレートに磁気ビーズを結合させた化合物を作製し、CD4陽性T細胞のタンパク抽出物を反応させる。PCB2ガレート・タンパク質複合体を回収し、アフィニティ精製を行い、PCB2ガレートと結合する標的タンパク質の同定を行う。以上の実験により、PCB2ガレートと相互作用し、解糖系シグナル制御に関わるT細胞内のタンパク質を特定することができる。
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