2020 Fiscal Year Research-status Report
免疫-代謝制御を介したプロシアニジン化合物の慢性炎症に対する抑制効果の解明
Project/Area Number |
19K05893
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
田中 沙智 信州大学, 学術研究院農学系, 准教授 (90633032)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
真壁 秀文 信州大学, 学術研究院農学系, 教授 (90313840)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | プロシアニジン / ガレート / T細胞 / サイトカイン / 解糖系 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、細胞のエネルギー代謝が細胞の機能や分化を調節することが報告され、異常な代謝の状態はがんの発生につながることが知られている。また、生体防御を担うT細胞においても、解糖系が亢進すると、炎症を誘発することが報告されている。我々はこれまでに、ポリフェノールの1つであるプロシアニジンB2(PCB2)にガレート基を付加した化合物において、T細胞の活性化および解糖系を強く抑制することを明らかにした。しかしながら、PCB2ガレートによる解糖系の制御を介したT細胞の機能制御について、詳細なメカニズムは明らかにされていない。そこで本研究では、PCB2ガレートによる細胞のエネルギー代謝調節を介した炎症制御メカニズムを明らかにする。 昨年度の結果により、PCB2ガレートはT細胞の解糖系を阻害し、炎症性サイトカインであるTNF-αの翻訳を抑制する可能性が示唆された。そこで今年度の実験では、PCB2ガレートによるTNF-αの翻訳抑制のメカニズムの詳細を解析した。解糖系を制御するmTOR/HIF-1経路を解析したところ、mTOR、p70S6Kのリン酸化およびHIF-1の発現量はPCB2ガレートの添加で顕著に抑制された。加えて、LeucineまたはDMOGをPCB2ガレートと同時に添加した後、TNF-α産生レベルを解析したところ、PCB2ガレートによる抑制効果が阻害された。したがって、PCB2ガレートは解糖系およびmTOR/HIF-1経路の抑制を介してTNF-α産生を制御することが示された。さらに、CD4陽性T細胞における解糖系酵素を介したサイトカインの翻訳制御を解析したところ、LDHに結合したTNF-α mRNA量はPCB2ガレートの添加で有意に増加した。以上の結果より、PCB2ガレートはCD4陽性T細胞の解糖系シグナルを阻害し、LDHによるTNF-αの翻訳を抑制することが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
PCB2ガレートによるTNF-αの翻訳抑制メカニズムの詳細を解析するために、解糖系に関連するmammalian target of rapamycin (mTOR)/Hypoxia inducible factor (HIF)-1経路への影響に着目した。マウス脾臓細胞より磁気ビーズ法で単離したCD4陽性T細胞に対して、抗CD3抗体および抗CD28抗体刺激下でPCB2ガレートを添加し、24時間の培養を行った。mTOR、p70S6Kのリン酸化およびHIF-1のタンパク質発現をウェスタンブロットで解析したところ、mTOR、p70S6Kのリン酸化およびHIF-1の発現量はPCB2ガレートの添加で顕著に抑制された。また、mTOR/HIF-1経路の抑制を介したPCB2ガレートのTNF-α産生制御を確認するため、PCB2ガレートで処理したCD4陽性T細胞にLeucine(mTOR活性化剤)またはDMOG(HIF-1活性化剤)を添加した際のTNF-α産生レベルを解析したところ、PCB2ガレートによる抑制効果が阻害された。したがって、PCB2ガレートは解糖系およびmTOR/HIF-1経路の抑制を介してTNF-α産生を制御することが示された。 次に、PCB2ガレートの解糖系を介したサイトカインの翻訳制御を解析するため、RNA免疫沈降法を用いて解糖系酵素であるLactate dehydrogenase(LDH)に結合したTNF-α mRNA量を解析した。その結果、LDHに結合したTNF-α mRNA量はPCB2ガレートの添加で有意に増加した。 以上の結果より、PCB2ガレートはCD4陽性T細胞の解糖系シグナルを阻害し、LDHによるTNF-αの翻訳を抑制することが明らかになった。今年度、予定していた実験が完了しており、研究は概ね順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
生体内において、外来の異物は樹状細胞やマクロファージなどの貪食細胞に取り込まれ、抗原の一部がCD4陽性T細胞へと提示されることで抗原特異的な免疫応答が起こる。CD4陽性T細胞は、樹状細胞などが産生するサイトカインの刺激を受け、機能の異なるサブセットに分化することが知られている。その中でも、Th17が産生するIL-17は感染防御や細胞傷害活性において重要な役割を果たす。しかしながら、IL-17の過剰な産生は炎症反応を惹起することから、炎症性疾患や自己免疫疾患の原因となることが示唆されている。我々はこれまでにPCB2ガレートがCD4陽性T細胞からのIL-17産生を抑制することを見出している。今後は、PCB2ガレートによるIL-17産生抑制メカニズムの解明ならびに疾患予防効果の検証を行っていきたいと考えている。 PCB2ガレートと相互作用する細胞内タンパク質が存在し、解糖系の抑制を介してTNF-α産生の低下が起こると予想している。細胞内タンパク質の候補としては、mTOR/HIF-1の上流の分子が想定される。この仮説を証明するために、分子間相互作用解析を行う。PCB2ガレートに磁気ビーズを結合させた化合物を作製し、CD4陽性T細胞のタンパク抽出物を反応させる。PCB2ガレート・タンパク質複合体を回収し、アフィニティ精製を行い、PCB2ガレートと結合する標的タンパク質の同定を行う。以上の実験により、PCB2ガレートと相互作用し、解糖系シグナル制御に関わるT細胞内のタンパク質を特定することができる。
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