2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K05907
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
宮内 栄治 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 研究員 (60634706)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 多発性硬化症 / 腸内細菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
多発性硬化症(MS)は遺伝的要因が大きく関与する中枢神経系炎症疾患であるが、腸内細菌を始めとする環境因子が発症や重篤化に多大な影響を与えることが明らかになってきた。本研究では、食事由来成分による腸内細菌制御を介した治療法確立に向けた基盤の構築を目指す。昨年度までに、ヒト腸内細菌14菌株(Desai et al. Cell 2015)のみを定着させたマウスに無繊維食を与えることで、MS患者で確認されているAkkermnansiaの増加を再現することができた。また、無繊維食を与えたマウスはより重篤な実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を発症することを確認した。一方、14菌株からAkkermansiaを除去してもEAE感受性は変化しなかったことから、他の要因が関与していることが示唆された。今年度、腸管内容物中のメタボローム解析を行った結果、無繊維食を与えたマウスの腸管では酪酸やプロピオン酸といった短鎖脂肪酸が減少していた。このことは、MS患者の糞便でも確認されている。そこで、短鎖脂肪酸濃度と正の相関を示す菌を14菌から除去したマウスのEAE感受性を検討した。しかし、これらの菌を除去してもEAE感受性に変化は見られなかった。また、通常飼育環境下(SPF)のマウスに酪酸、またはプロピオン酸セルロースを投与することで腸管内短鎖脂肪酸濃度を増加させEAEを発症誘導したが、短鎖脂肪酸濃度とEAE感受性との間に関連は見られなかった。以上のように、ヒト腸内細菌14菌株を定着させたマウスに無繊維食を与えることでAkkermasiaの増加や短鎖脂肪酸の減少といったMS患者で確認されている事象を再現することができたが、これらの因子は中枢神経系炎症の制御には関与していないことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでにMS患者で報告されているAkkermansiaの増加や短鎖脂肪酸の減少をマウスで再現することができ、さらにこれらの特徴をもつマウスはEAE感受性が高いということを確認することができた。一方で、Akkermansiaや短鎖脂肪酸を増減させたのみではEAE感受性に変化がないことも確認することができ、他の因子が寄与している可能性を見出すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の結果から、MS患者で病態への関与が示唆されてきたAkkermansiaや短鎖脂肪酸ではなく、他の因子が中枢神経系の炎症に大きく寄与している可能性が見いだされた。実験に用いている無繊維食と高繊維食の成分を比較した結果、無繊維食には多量のグルコースが含まれていることが示された。近年、高グルコース負荷によりEAEの感受性が高まることが示唆されている。また、MS患者においても糖代謝異常の割合が健常人より高く、血糖値も高いことが報告されている。このことから、高血糖が中枢神経系炎症に関与している可能性が考えられる。このことを検証するため、まずは高グルコース負荷でEAE感受性が高まるといった報告の再現性を確認する。また、無繊維食を与えたマウスにSGLT1阻害剤を投与することでグルコースの吸収を阻害し、それによるEAE感受性の変化を解析する。これらの結果から血糖値の上昇がEAE感受性に影響することが示された場合、ストレプトゾトシン投与により高血糖状態を誘導し、これらのマウスのEAE感受性を解析する。さらに、高血糖が中枢神経系炎症を制御する機序を解析する。
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