2020 Fiscal Year Research-status Report
ケミカルストレスを引き金とする食品機能性成分の新規作用機構の解明
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19K05913
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
村上 明 兵庫県立大学, 環境人間学部, 教授 (10271412)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | カテキン / エピガロカテキンガレート / 脂肪分解 / Huh7細胞 / AMP依存性キナーゼ / ATP / ファイトケミカル / ケミカルストレス |
Outline of Annual Research Achievements |
緑茶カテキンの主成分であるエピガロカテキン-3-ガレート(EGCG)の中性脂肪(TG)分解機構についてケミカルストレスの観点から解析した。分化ヒト肝臓細胞Huh7をコンフルエント状態で継続培養すると日数依存的にTGを蓄積する。この細胞モデルを用い、まずEGCGが濃度および時間依存的なTG分解作用を示すことを確認した。次いで、EGCGのケミカルストレス作用を解析したところ、酸化ストレスおよびタンパク質ストレスを誘導することを見出した。また、これらに対する適応応答として、抗酸化酵素や解毒酵素や分子シャペロンの誘導が起こった。さらに、EGCG添加後に培地中グルコース濃度や細胞内ATPレベルの低下が起こり、EGCGのケミカルストレスに対抗するための防御機構の活性化が細胞内外のエネルギー消費を起こしていることが強く示唆された。さらに興味深いことに、いったん低下した細胞内ATPレベルはその後、回復傾向にあり、これはTGの分解によってATPが新たに供給されたことを示唆した。また、EGGC添加によりAMP依存性キナーゼ(AMPK)の活性化が確認できたこともこのケミカルストレス仮説を指示した。これまで緑茶あるいは緑茶カテキンの抗肥満作用やTG分解作用がヒト、実験動物、あるいは培養細胞で報告されてきたが、本研究のようにケミカルストレスの観点からのメカニズムの提唱は初めてである。さらに、予備的検討として、細胞外小胞(exyracellular vesicles, EV)に着目し、ヒト大腸がん細胞HT-29をケルセチンで処理した場合に分泌されるEVにケルセチンが含まれること、さらにEVに内包されたケルセチンは遊離体に比べてはるかにRAW264.7マクロファージへ効率よく取り込まれることを見出した。これもケミカルストレスに対する応答として興味深いと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究で掲げている、「ファイトケミカルは動物には異物であり、それを摂取すると様々なケミカルストレスが起こるが、これが適度であれば様々な生体防御機構が活性化し、結果的に様々な生理機能性の誘導に繋がる」という仮説を支持する知見を得ることができた。これは「ホルミシス」という、生命現象におけるストレス応答性の重要性を食品機能性の観点から解析したものであり非常に意義深いと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
食品機能性研究では、一般的に培養細胞にファイトケミカルを単回で添加し、その機能性を解析する。しかし日常生活では、継続的な野菜や果物の摂取により異物であるファイトケミカルに対して慢性的に暴露されている。しかしながら、これまでにこうした複数回の処理(摂取)によるストレス耐性や機能性の変動に関する知見は少ない。そこで今後は、消化管粘膜の正常細胞を用いて、ファイトケミカルを複数回処理し、その際の防御分子の発現レベルやストレス耐性について、単回処理の場合と比較しながら解析を行う。用いるファイトケミカルとしては、ワサビなどに含まれるアリルイソチオシアネート(AITC)を予定してる。これは、比較的摂取頻度が高いことと、これまでの研究で酸化ストレス亢進作用が見出されているからである。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により予定していた実験のいくつかが実施できなくなり、消耗品の使用額が予定より減額となった。また、宮崎と仙台へ予定していた学会がオンラインとなり旅費についても使用中止となった。
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