2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K05918
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Research Institution | Kyoto University of Advanced Science |
Principal Investigator |
安達 修二 京都先端科学大学, バイオ環境学部, 特任教授 (90115783)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | でん粉麺 / 吸水 / 復水 / 糊化 / 小麦粉麺 / 律速段階 |
Outline of Annual Research Achievements |
スパゲッティやうどんなどの乾燥小麦粉麺の熱水による復水(吸水)過程は,グルテンネットワークの弛緩とでん粉の糊化が関与し,前者が律速となる.しかし,乾燥小麦粉麺を常温の水で復水すると約1時間で喫食できるが,グルテンを含まないでん粉麺では,でん粉の起源により,常温の水ではいつまで経っても喫食できるようにならない.しかし,その差異に対する理由は十分に解明されていない.そこで,小麦粉麺を含む乾燥麺の内部における水の移動機構についてさらに理解を深化させるとともに,災害時の避難所や宇宙船内のように熱水の利用が制限される状況下で,常温の水で短時間に復水できる乾燥麺の開発に関する基礎的な知見を得ることを目的とする. 令和元年度は,グルテンを含まず断面形状が大きく異なる市販の3種のでん粉麺の種々の温度(30~70℃)における復水過程における含水率(吸水量)の経時変化を測定した.復水初期に起こるマイクロクラックへの吸水を考慮することにより,断面形状に関わらず,すべての麺および温度における吸水過程は吸水時間に関する双曲線形の式でよく表現できた.また,その速度式から求めた初期吸水速度および平衡含水率の温度依存性をArrhenius式およびvan’t Hoff式に基づいて整理し,吸水過程に対する活性化エネルギーおよび吸水エンタルピーを算出した.吸水エンタルピーの値は,でん粉の糊化温度を境として大きく異なっていた.さらに,吸水の律速過程について検討し,グルテンを含む小麦粉麺では,麺内部における水の拡散が律速であるのに対し,グルテンを含まないでん粉麺では麺表面と茹で水との界面における物質移動が律速となることを明らかにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和元年度は,グルテンを含まない市販の3種のでん粉麺の種々の温度(30~70℃)における復水過程における含水率(吸水量)の経時変化を測定した.なお,いずれもジャガイモでん粉を主成分とするが,麺の断面形状は平板状,長方形およびX字形と大きく異なっていた.しかし,復水初期に起こるマイクロクラックへの吸水を考慮することにより,断面形状に関わらず,すべての麺および温度における吸水過程は吸水時間に関する双曲線形の式でよく表現できた.また,その速度式から求めた初期吸水速度の温度依存性は,すべての温度範囲にわたり,Arrhenius式によるプロットは1本の直線で表され,活性化エネルギーの値を算出した.一方,平衡含水率の温度依存性をvan’t Hoff式に基づいて整理すると,吸水エンタルピーの値はでん粉の糊化温度を境として大きく異なり,糊化温度以上で大きな値となった.なお,それぞれの麺のでん粉の糊化温度は,報告者らが開発した,定速昇温過程における吸水量の変化から推算した. 麺内部における水の拡散と麺表面における境膜物質移動のいずれかが律速となる場合の吸水速度式を半無次元化した式により断面形状の異なるでん粉麺の吸水の律速過程を解析したところ,グルテンを含む小麦粉麺では,麺内部における水の拡散が律速であるのに対し,グルテンを含まないでん粉麺では麺表面と茹で水との界面における物質移動が律速となることを示唆された.さらに,異なる振盪速度における吸水過程の測定により,麺表面における境膜物質移動が律速とすることを支持する結果を得た.
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Strategy for Future Research Activity |
令和元年度の成果に基づき,令和2年度は,糊化度や乾燥時のガラス転移温度の異なる乾燥でん粉麺を調製し,これらの吸水挙動を種々の温度で測定する.なお,糊化度の異なる乾燥でん粉麺は,乾燥麺を一度熱水で十分に復水させ,でん粉がほぼ完全に糊化した麺を直ちに熱風乾燥(70℃以上)する,またはでん粉がもっとも老化しやすい冷蔵庫内温度で30分から1日保存したのちに室温付近で乾燥することにより調製する.なお,冷蔵庫での保存時間を変えるのは,でん粉には比較的速く老化する領域とそうでない領域があることに因る.また,乾燥時のガラス転移温度の異なる麺は,ジャガイモでん粉にガラス転移温度の低い糖(例えば,フルクトースやキシリトールなど)を適切な割合で添加して製麺し,それを乾燥することにより調製する.なお,乾燥麺のガラス転移温度は麺を粉砕し,含水率を調整したうえで,示差走査熱量計(DSC)を用いて測定する.さらに,これらの麺の復水過程における含水率分布について,間接的な方法ではあるが,力学特性(応力-歪曲線)を測定することにより推定する. 最終年度には,ジャガイモでん粉に,アミロース含量の低いタピオカでん粉を添加し,全体のアミロース/アミロペクチンの比率を変えた乾燥麺およびグルテンのみからなる麺状のものを作製し,それらの種々の温度における復水過程における含水率の経時変化を測定する.以上の検討より,グルテンネットワークの弛緩とでん粉の復水との速度的な差異に基づき,グルテンネットワークの弛緩とともに,でん粉の老化度,麺のガラス転移温度,アミロース含量などが復水過程に対してどの程度の律速因子となるかを定量的に把握する.
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Causes of Carryover |
断面形状の異なる復水実験は操作が比較的単純であり,卒業論文の学生の協力を得て実施したが,大学院生は在籍せず,卒論生の実験時間も限られている.そこで,近隣の国立大学の理系大学院生(修士課程)をアルバイトとして雇用し,実験および定量的な解析を補助して貰うために,研究費の約半額をその費用に充当していた.しかし,アルバイトとして雇用した大学院生は就職活動などで就業日数が当初の予定よりも少なくなり,次年度使用が発生した.なお,研究自体の進捗には大きな影響はなく,当初の予定通りに進行した.令和元年度に雇用した大学院生の一部は令和2年度も継続して勤務し,さらに新たに1名の大学院生を雇用する.令和2年度に繰り越した費用をこれらのアルバイトの人件費として使用することにより,研究の進展を加速させる.
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