2019 Fiscal Year Research-status Report
ヒト臓器モデルを用いた分子細胞生物学的手法による機能性食品成分の探索と機能解明
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19K05928
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高橋 裕 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (30835377)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ヒト小腸オルガノイド / CRISPR/Cas9 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は,ヒト小腸オルガノイドの培養技術に関する方法論の整備に着手した。研究代表者は,すでにオルガノイド培養に必要なサイトカイン(Wnt3a, R-spondin1, Noggin)を強制発現したL細胞(L-WRN細胞)の培養上清を培地として用いることで,培養にかかるコストを市販の組換えタンパク質を用いた場合に比べて約1/15に削減することに成功している。しかし,オルガノイドの培養には比較的高価な細胞外基質や他のサイトカインも必要であるため,研究代表者はさらなるコスト削減に取り組んだ。その結果,細胞外基質を従来のマトリゲルからより安価なコラーゲンゲルに変えてもオルガノイドを培養できること,また,L-WRN細胞にさらにHepatocyte growth factor(HGF)を強制発現させた細胞の培養上清を培地とすることで,培養コストを削減できることを示した。 また継代の際,これまでは注射針による物理的破砕を行っていたが,実験者によるバラつきを軽減するため,酵素による破砕方法を検討した。その結果,実験者間でのバラつきが少なく,さらに従来よりも細胞密度を希釈して継代できる条件を設定できた。 さらにCRISPR/Cas9システムを用いて遺伝子改変オルガノイドを作製する試みも行った。表現型を示すことが明らかな遺伝子であればその表現型を指標にしてノックアウト(KO)細胞を得られるが,機能未知な遺伝子の場合,個々のオルガノイドを単離してKOの有無を解析することが非常に煩雑であるため,目的遺伝子のKOと同時にレポーター遺伝子を組み込むノックイン(KI)の方法を試みた。しかし遺伝子導入効率を上げても,予想に反して目的のKI細胞は得られなかった。KO細胞は遺伝子導入後のプールの状態でゲノムPCRにより検出されたことから,この原因はガイドRNAの配列ではなく,KI効率が低いためであると推察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヒト小腸オルガノイドにおいてゲノム編集技術を確立する課題については,KOではなく,KOよりも困難なKIによる方法を採択した。現時点で方法論の確立までには至っていないが,クローン化を行わないプールの状態で目的遺伝子のKOを実施できるところまでは確認できており,今後はKI効率の改善を目指すという方向性を明確にすることができた。また,当初の計画には組み込んでいなかった,細胞外マトリクスを従来使用していたマトリゲルからコラーゲンゲルに変更するための検討を実施し,さらなる培養コストの削減に成功した。本検討結果により,細胞外マトリクスにかかる費用を1ウェルあたり数百円から数十円まで低減することができた。HGFを発現させたL-WRN細胞の培養上清を用いることで培地にかかる費用のさらなる削減にも成功したこと,継代時のオルガノイドの破砕を酵素を用いた方法に変えることで安定的かつ効率的な継代が可能になったことを併せて考えると,今年度の検討によりオルガノイドを大量培養する必要がある実験系の基盤はほぼ整えることができたと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
CRISPR/Cas9システムを活用してノックイン細胞を得るための効率を上げるため,トランスフェクション条件の更なる検討に加え,レポーターを含むドナー遺伝子の検討を行う。具体的には,ドナー遺伝子にはレポーター遺伝子の5´側と3´側にゲノム遺伝子に対してそれぞれ相補的なアーム配列を含んでいるが,この長さを変更したドナー遺伝子を複数作製し,ノックイン効率を比較する。また,現在はプラスミド型(環状型)の遺伝子を用いているが,より高いノックイン効率が期待できる,直鎖状にした場合についての検討も実施する。さらに,レポーター遺伝子(蛍光タンパク質や薬剤耐性遺伝子)の種類についても検討する予定である。 また,当初の計画通り,ヒト小腸オルガノイド由来単層上皮細胞と小腸上皮様に分化させたCaco-2細胞における性質の違いについて,遺伝子発現や応答,機能の観点から解析を進める。Caco-2細胞はコンフルエントの状態で培養を続けると小腸の吸収上皮細胞様になることから,これまでヒトの小腸上皮モデルとして広く用いられてきた。しかしCaco-2細胞は単一種の大腸がん細胞由来であり,吸収上皮細胞以外にもパネート細胞や杯細胞など複数種の小腸上皮細胞を含む正常細胞である,ヒト小腸オルガノイド由来単層上皮細胞とは生理的な応答や機能が大きく異なる可能性がある。そのため,ヒト小腸オルガノイド由来単層上皮細胞についてのみ見られる生理的意義が大きい現象が見出された場合には,さらなる解析を進める,もしくは化合物スクリーニングの評価系に仕上げるための検討を実施することを計画している。
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Causes of Carryover |
ヒト小腸オルガノイド培養用の培地および細胞外マトリクスのコストダウンを図る検討が順調に進んだため,消耗品の試薬にかかる費用を若干削減できた。次年度使用予定の余剰分については,ゲノム編集技術を用いて遺伝子改変オルガノイドを構築するための基盤を構築する上で,追加検討を行う際の消耗品試薬購入用に充てる予定である。
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