2020 Fiscal Year Research-status Report
Understanding of the mechanism of gastric carcinogenesis by the development of the system that visualizes dynamics of the planar cell polarity within gastric epithelial organoids
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19K05945
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高橋 昌史 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 助教 (00624496)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | CagA / Helicobacter pylori / 平面内細胞極性/PCP極性 / PAR1b/MARK2 / 頂底細胞極性/A-B細胞極性 |
Outline of Annual Research Achievements |
ピロリ菌の胃内慢性感染は、胃粘膜病変の発症と密接に関わる。今日までに、私たちは細菌性癌タンパク質であるピロリ菌の病原因子CagAが、胃上皮細胞の増殖異常および腸型分化転換を引き起こすこと、さらにはCagAを発現する遺伝子組み換えマウスが胃がんを自然発症することを報告してきた。本研究で私はCagAの新規病原活性を探索するために、アフリカツメガエル初期胚にCagAの異所性発現を行い、CagA発現胚が原腸陥入不良・神経管閉鎖障害・二分脊椎などの形態形成異常を生じることを示した。これらの発生異常は、Wnt-PCP(Planar Cell Polarity・平面内細胞極性)シグナルの伝達異常と密接に関わることから、CagAがWnt-PCPシグナルを撹乱すると仮説を立て、その検証を行った。CagAを発現させたヒト培養上皮細胞を用いて、免疫沈降およびPLA試験(Proximity Ligation Assay)を行い、CagAが内在性のWnt-PCPシグナル主要分子Xと細胞膜近傍で複合体を形成することを示した。さらに、CagAの部位欠失型改変分子を用いて、この複合体形成に不可欠なCagAの分子内責任領域を特定した。Xとの複合体形成能を欠失した改変型CagAは、複合体形成能を持つ野生型CagAとは対照的に胚発生の異常を起こさないことを示した。これらの結果から、ピロリ菌の病原因子CagAが、標的分子Xと結合することでその機能をハイジャックし、Wnt-PCPシグナル伝達を撹乱していると推察された。PLA試験は任意のタンパク質間相互作用を定量的に評価できることに加え、その相互作用が生じる細胞内ドメインの情報も同時に明示することができる。よって、Wnt-PCP主要分子を特異的に認識する抗体を用いたPLA試験は、平面内細胞極性のモニタリング法の開発に応用的に利用できると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
正常の上皮組織に存在する細胞極性には、平面内細胞極性(PCP極性)の他に、これと直交する方向に形成される頂底細胞極性(Apical-basal polarity・A-B細胞極性)が存在する。この両細胞極性の間には相互に他を制御し合う分子機構があると考えられており、上皮細胞極性さらには正常上皮組織の形成および維持に重要な役割を担うと考えられている。本研究では「CagAによる平面内細胞極性の撹乱」に着目するが、私たちは今日までにCagAが頂底細胞極性の主要制御キナーゼPAR1b(MARK2)を阻害することを報告している。昨年度、私はCagAによるPAR1bの活性阻害が平面内細胞極性の制御に干渉する可能性を考え、PAR1bがHippoシグナル伝達経路の制御キナーゼ(MST1/2)を抑制することを報告した。Hippoシグナル伝達経路は、細胞-細胞間接着を制御の起点としたがん抑制性のシグナル経路として知られ、接着増殖阻害(Contact inhibition)の制御を介して上皮組織内における細胞の振る舞いを決める重要な細胞内シグナルである。本年度は、Hippoシグナル経路においてMST1/2の下流に位置する転写共役分子YAP1に着目した。ヒトYAP1は選択的スプライシングを経て8種のYAP1アイソフォームが産生される。私たちは第6エキソンにコードされた領域を分子内に持つYAP1アイソフォームと持たないYAP1アイソフォーム間で、ヌードマウス皮下における造腫瘍性活性が異なること、およびその差異を与える分子メカニズムを明らかにした[Ben et al JBC 2020]。Hippoシグナルは上皮細胞極性の制御機構と機能的な連関を持つと考えられるため、PAR1b-Hippoシグナル系を介した頂底細胞極性の異常が、平面内細胞極性の制御系に影響を及ぼす仮説も検証する意義があると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 哺乳動物の胃上皮組織における平面内細胞極性の動態を観察する。マウス/ヒトで同定されている約20種類のWnt遺伝子の中から、胃上皮組織において平面内細胞極性の誘起に関わると推察されるWnt分子種を選定する。胃上皮組織におけるmRNA発現プロファイルをもとに、上記Wntリガンドの受容を担うFzd受容体の候補を推定する。マウス/ヒトの胃腺管(in vivo試料)あるいは胃上皮オルガノイド/シート(ex vivo試料)の免疫組織化学染色・免疫蛍光染色を行い、Wnt-PCPシグナル経路の主要分子の細胞内分布を観察する。In vivo観察系あるいはex vivo観察系で平面内細胞極性の動態を可視化できる蛍光レポーターをPLAを応用するなどの方策により作製する。この蛍光レポーターを用いた観察系により、胃上皮組織の平面内細胞極性の形成・維持に責任を担うWntリガンド-Fzd受容体を特定する。 2. CagAがWnt-PCPシグナル伝達を撹乱する分子メカニズムを明らかにする。CagA発現試料とCagA非発現対照試料の間で、Wnt-PCPシグナル経路の主要分子Xの細胞内分布を比較する。また、同試料を用いた共免疫沈降実験およびウェスタンブロット解析を行うことで、CagAとWnt-PCP経路主要分子の間の結合がどのような機構を介してWnt-PCPシグナル伝達を障害するか解析する。また、細胞内タンパク質間の結合をin situで評価できるPLA試験を有効に活用し、CagAのXへの結合が、Wnt-PCPシグナル伝達にどのような効果を与えるか検討する。PAR1bおよびHippoシグナルの機能欠損(Loss-of-function)を行い、CagAによる平面内細胞極性障害にPAR1b-Hippoシグナル系が関与し得るか検討する。
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Research Products
(2 results)