2019 Fiscal Year Research-status Report
筋分化誘導型オリゴDNAによる筋萎縮の予防・治療の基盤研究
Project/Area Number |
19K05948
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
高谷 智英 信州大学, 学術研究院農学系, 助教 (00450883)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | オリゴDNA / 骨格筋 / 筋芽細胞 / 筋分化 / ロコモティブ症候群 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、筋形成型オリゴDNA(myoDN)による筋分化誘導の分子機構を明らかにするため、myoDNを投与したヒト筋芽細胞の全遺伝子の発現変動をRNAシーケンスにより解析した。22,269の転写産物を定量した結果、myoDN依存的に発現が変化する899遺伝子を同定した。myoDN依存的に発現が抑制される423遺伝子は細胞周期に関するクラスターを含み、発現が増加する476遺伝子には筋原線維の形成に寄与するクラスターが有意に検出された。詳細なデータ分析から、myoDNはWnt, SMADなどの細胞内シグナル経路に作用することが示唆された。オリゴDNAは一般的に、Toll様受容体(TLR)に認識されるが、TLRシグナル経路の遺伝子発現はmyoDN投与群において変化しなかったことから、myoDNによる筋分化誘導はTLR非依存的であることが示唆された。 次に、骨格筋同様に間葉系幹細胞から分化する脂肪細胞および骨芽細胞に対するmyoDNの作用を検討した。その結果、myoDNは脂肪前駆細胞の分化を抑制し、細胞内の脂肪蓄積を阻害することがわかった。骨格筋分化と脂肪分化は排他的に生じることが知られているが、myoDNは両分化をスイッチする作用点に働くことで、筋分化を促進し、脂肪分化を抑制することが考えられる。 また、myoDNは骨芽細胞の骨分化に影響を与えることも認めた。BMPシグナルは筋分化を抑制し、骨分化を促進するため、myoDNはBMPシグナル経路に影響を及ぼしていることが推測される。 脂肪細胞および骨芽細胞におけるmyoDNの作用機序についてはまだ不明な点が多いが、複数の細胞分化におけるmyoDNの働きを解析することで、分子メカニズムの解明がさらに進むことが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成31年度(令和元年度)末までを予定していた、「myoDNによる筋分化誘導機構の解析」は、RNAシーケンスの解析をもって当初の目的が達成された。myoDNの筋分化促進作用はTLR非依存的であることが示唆されたため、TLR依存的に免疫反応を誘導するCpGオリゴDNAや、免疫反応を抑制するテロメア型オリゴDNAが、myoDNの交互作用を検討したが、myoDNによる筋分化誘導は免疫型オリゴDNAによって阻害されなかった。myoDNはTLR非依存的に細胞の分化を制御する全く新しいオリゴDNAであることが明確となった。以上のmyoDN関連技術を特許出願し、得られた知見を複数の学会で報告した。 また、令和2年度末までを予定している、「myoDNが適用可能な細胞現象の探索と検証」について、これまで研究を進めてきた筋芽細胞以外に、マウス脂肪前駆細胞モデルである3T3-L1細胞株、マウス骨芽細胞株MC3T3-E1、ヒト初代培養平滑筋細胞、マウス破骨細胞モデルであるRAW264.7細胞株の培養・分化誘導系を構築し、myoDNの作用を順次検証中である。概要に記載した通り、脂肪細胞および骨芽細胞においては顕著な進捗があり、現在、新たな技術として特許出願の準備を進めている。 さらに、上記で構築した骨芽細胞系を用い、myoDNとは異なる、骨分化を誘導するオリゴDNAのスクリーニングを開始した。現時点で、骨分化を誘導するオリゴDNA(osteoDNと仮称)配列1例の同定に成功しており、この配列も特許出願の作業を進めている。osteoDNはmyoDNとは全く異なる作用を発揮する新規配列であり、本研究の学術的独自性「オリゴ核酸による細胞の分化制御」という新領域の開拓を大きく進展させるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
myoDNの筋分化誘導作用の臨床応用を目指し、加齢・糖尿病・がん悪液質(カヘキシー)などにおける筋萎縮のモデルにおけるmyoDNの作用を検討する。糖尿病についてはヒト糖尿病患者の初代培養筋芽細胞を用いる。既に、糖尿病筋芽細胞では筋分化能が減弱していることを確認しており、実験系は整備されている。カヘキシーについては、がん細胞の培養上清でヒト筋芽細胞の分化を誘導すると筋管形成が抑制されることを見出しており、この実験系をカヘキシーによる筋萎縮のモデルとして活用する。 myoDNが作用することが明らかになった脂肪細胞および骨芽細胞については、その分子メカニズムの解明を進める。具体的には、myoDNの投与時期の最適化、その時点における遺伝子発現変化の解析、作用点の推定および検証である。また、平滑筋細胞および破骨細胞の分化にmyoDNが影響するかを検討する。多様な細胞腫におけるmyoDNの効果を比較することにより、オリゴDNAによる細胞分化の制御機構を立体的に実証することを目指す。 本研究課題で新たに同定したosteoDNについては、その作用機序の解析を進める。既に共同研究者によって、osteoDNの立体構造の分子シミュレーションが進められており、構造データの解析からosteoDNの作用に不可欠なコア配列の特定を目指す。また、ヒト初代培養骨芽細胞やヒト骨肉腫細胞、マウスiPS細胞におけるosteoDNの作用を検討し、骨粗鬆症や骨肉腫、人工骨の作成への応用可能性を模索する。
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[Journal Article] Distinct cell proliferation, myogenic differentiation, and gene expression in skeletal muscle myoblasts of layer and broiler chickens2019
Author(s)
Nihashi Yuma, Umezawa Koji, Shinji Sayaka, Hamaguchi Yu, Kobayashi Hisato, Kono Tomohiro, Ono Tamao, Kagami Hiroshi, Takaya Tomohide
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Journal Title
Scientific Reports
Volume: 9
Pages: 16527
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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