2020 Fiscal Year Research-status Report
植物のDNA倍加誘導において再複製を可能にする仕組みの解明
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19K05951
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
高塚 大知 金沢大学, 生命理工学系, 助教 (70633452)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 細胞周期 / DNA倍加 / エピジェネティクス |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に、ヒストンH3の27番目のリシンのモノメチル化を行うメチル化酵素であるATXR5/6がDNA倍加移行の鍵となっている可能性を突き止めた。令和2年度は、前年に作出した機能的レポーターラインのライブイメージング解析を行い、ATXR5/6の細胞周期における発現様式の解明に取り組んだ。その結果、ATXR5、ATXR6いずれもG1期からS期初期に高発現する一方、S期後期からG2期初期にかけて発現が大きく低下することを定量的に示すことができた。H3K27me1がヘテロクロマチン領域に豊富に存在することを考慮すると、この結果から、「ATXR5/6によるH3K27me1は、G1期およびS期初期に、S期後期に複製するヘテロクロマチン領域が複製されないようにする働きを持つ」という可能性が考えられた。そこで、atxr5/6二重変異体のS期の長さを測定したところ、atxr5/6二重変異体では野生型よりもS期が短いことが明らかになった。これは、「本来S期後期に複製されるヘテロクロマチン領域が、S期初期に複製されてしまうため、S期の長さが短くなった」という可能性が示唆された。この点を詳細に調べるため、野生型とatxr5/6二重変異体を、DNA複製されているクロマチンコンパートメントを可視化できるEdU染色に供した。その結果、atxr5/6二重変異体では、野生型では殆ど見られない、「S期初期に複製されるユークロマチン領域と、S期後期に複製されるヘテロクロマチン領域の同時複製」が観察された。これらの結果から、ATXR5/6によるH3K27me1は、ヘテロクロマチンに局在し、「本来S期後期に複製されるべきヘテロクロマチンをS期初期に複製させない仕組み」として機能している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度作出したATXR5/6の機能的レポーターラインを用いて、ATXR5/6の細胞周期における発現変動の様子を定量的に示すことができ、その結果として、ATXR5/6がこれまで知られていなかった働きを持つ可能性を突き止めることができた。更に踏み込んで、ATXR5/6がH3K27me1を介してクロマチンコンパートメントごとにDNA複製される順番を決めるという、全く新しい概念を示唆する結果を得ることができた。これは、DNA倍加を盛んに起こす植物独自のDNA複製制御機構に迫る可能性を秘めた重要な発見であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度、①atxr5/6二重変異体ではS期が短い、②atxr5/6二重変異体では本来S期後期に複製されるヘテロクロマチン領域が、S期初期に複製されるユークロマチンと同時に複製される、という2つの特徴的な表現型を見出した。しかし、これがatxr5/6二重変異体のDNA倍加亢進の表現型とリンクしているのか、リンクしているとしたらそれはどのような機構かは定かでない。動物細胞では、DNA複製速度の過剰な亢進はDNA損傷の原因となることが報告されている。また、植物細胞ではDNA損傷の蓄積は、G2期の遅延およびDNA倍加への早期移行につながることが明らかになっている。これらの知見を踏まえ、atxr5/6でのDNA損傷蓄積の様子や、G2期遅延の有無を解析し、「S期が正しく進行することがG2期の進行ひいてはDNA倍加移行タイミングの決定に重要である」という全く新しい概念の確証に取り組む。
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Causes of Carryover |
所属機関内の研究助成2種の交付に至ったため、その分を次年度に持ち越すこととした。
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Research Products
(2 results)