2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K05983
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
伊藤 博紀 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 次世代作物開発研究センター, ユニット長 (00466012)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 光環境応答 / 青色光 / 光周性反応 / 出穂期制御 / イネ |
Outline of Annual Research Achievements |
イネの出穂期制御ではフロリゲンの発現が必須である。その促進因子であるEhd1は青色光依存的に発現する特徴を有することから、このEhd1の転写制御の遺伝的な改変による開花期制御への影響を解析した。まず、青色光依存的なEhd1転写活性化における光受容体(CRY1分子)の下流で機能しEhd1の転写促進に機能すると考えられた2種のBBX型転写因子(OsBBX1とOsBBX2)についての生化学的な解析を行なった。イネ葉鞘由来のプロトプラスを用いた一過的発現系を構築した。構造的に、OsBBX1はDNA結合ドメインを有するが明確な転写活性化領域を有さない。一方で、OsBBX2は、DNA結合ドメイン様構造は認められるが、代表的な転写活性化領域を有していた。解析の結果、OsBBX1とOsBBX2が相互作用して、Ehd1プロモーターを活性化することを明らかにした。また、長日条件の抑制因子Ghd7遺伝子を発現させるとOsBBX2による活性化は抑制されることも明らかとした。これにより、青色光を介した転写因子のネットワークが明らかとなった。 次に、OsBBX1とOsBBX2の各ゲノム編集系統を日本晴背景で作出した。T2世代を用いてEhd1の活性が高い短日条件下での出穂調査を行なった。その結果、OsBBX1ゲノム編集系統では、野生型に比較して、出穂期に有意な遅延は観察されなかった。しかし、OsBBX2は約5日程度の遅延を生じた。今後、さらに異なる品種、系統での効果を確認する。一方で、日本晴以外のイネ品種においては、青色光条件での出穂期には違いが生じることを明らかにできた。今後は、それらの異なる遺伝背景における、OsBBX1およびOsBBX2の発現解析等を通じて、Ehd1の青色光応答による出穂期改変の品種特異性やその鍵遺伝子を明らかする予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
イネの青色光応答性改変に必要な開花期制御ネットワークについては、活性化に関わる転写因子の解明と、その科学的根拠となる生化学的なデータを蓄積した。また、ゲノム編集系統による機能検証について最終年度に向けて順調に材料を準備できた。分子育種では、日本晴に限らない、複数の品種においても材料育成を進めており、出穂期制御への影響精査と汎用性確認に展開している。複数品種での検証は、OxBBX1やOsBBX2の各変異のイネの成長における出穂期以外の表現型についても知見を増やすことができる。 一方で、北海道由来の光周性欠損品種の中に、早咲き程度の多様性が既存出穂期遺伝子型では説明されないことを見出している。また、インディカ型多収品種の中に既知遺伝子型では説明されない出穂性が存在する結果も見出された。これらの現象は、イネ自然変異の中に、Ehd1の促進能に影響する未同定の自然変異が存在することを強く示唆すると考えている。新規自然変異の同定に必要な青色光応答性の出穂制御に関わるマーカー遺伝子、候補遺伝子の機能解析を行うためのツール(ゲノム編集技術)は本研究から蓄積してきており、本研究期間の最終年度において、BBX遺伝子の品種特異的な発現パターンの検証や、さらには、その原因となる未知の自然変異の同定を視野に入れた解析を実施することができる。これにより、日本晴で同定した青色光応答性による出穂制御基盤に、さらに新しい要素を加えることができれば、日本のイネに限らず、世界の水稲品種での出穂期制御に利用するための科学的な知見が得られると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
Ehd1の転写制御ネットワークについては、出穂期制御に関わる異なるBBX遺伝子(OsCOL4やHd1)との関連も調査し、抑制因子と促進因子の関係性をEhd1転写制御の青色光応答性を中心としてさらに詳細に明らかにする。得られた結果を統合して、Ehd1の青色光応答性と多様な稲品種の出穂期のファインチューニングについて考察する。 また、品種間差については、遺伝要因の同定に向けた研究を進める。Ehd1の発現、および、青色光に対する応答性を指標として、品種特性を整理し、自然変異のスクリーニングを行う。また、複数の品種で、OsBBX1やOsBBX2のゲノム編集系統を作出し、表現形質の違い(顕在化)を検証することで、分子遺伝学的な知見を増大させる。研究実施者は、既存のCSSL実験系統群の使用・変異体を使用することが可能であり、また、圃場を利用することもできるため、速やかに、交配集団を育成し、バルクを用いたQTL-seq法を用いて、候補遺伝子同定を行い、ゲノム編集による機能性検証を進める予定である。
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Causes of Carryover |
年度末の物品購入において、96穴プレートなどの一部の理化学消耗品が、新型コロナウィルス関連のメーカー対応のため、年度内での調達ができなくなってしまった。そのため、記載の様な次年度使用額が生じてしまった。 当該次年度使用額については、翌年度の理化学消耗品の購入や、DNAオリゴや液体窒素といった研究消耗品の購入に使用する計画である。
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