2020 Fiscal Year Research-status Report
新奇低アミロース性突然変異米を軸としたデンプン生合成メカニズムの解明
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19K05989
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
濱田 茂樹 弘前大学, 農学生命科学部, 准教授 (90418608)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | イネ / アミロース / デンプン / 突然変異 |
Outline of Annual Research Achievements |
米の新規用途開発のために多様な形質をもった品種開発は、食料自給率向上や安定的な食料生産の観点から重要な課題である。米の胚乳デンプンのアミロース含量は、炊飯米の食味の良否はもちろんのこと、米加工食品の加工適性においても重要な形質であり、低アミロース品種はその特徴から、中食あるいは外食用としてのニーズが高まっている。本研究では、つがるロマンを原品種とする突然変異系統ライブラリーから、アミロース含量が低いにも関わらず、低アミロース米特有の玄米白濁が少なく、もち臭の低減した既存品種にはない新たな特徴を持つ低アミロース米の選抜に成功した。本課題では、この低アミロース性突然変異系統について、デンプンの特徴的な構造を明らかにするとともに、原因遺伝子の同定およびデンプン生合成関連遺伝子群の発現解析をすることを目的とした。これまでの研究から、当該選抜系統では、アミロース生合成を担うWx 遺伝子の発現において、mRNA の不完全なスプライシングが増加することにより、タンパク質レベルでの酵素発現が減少することが明らかとなった。さらには、次世代シーケンスおよび CAPS 法による低アミロース性の表現型とジェノタイプの遺伝解析から原因遺伝子を同定した。結果として、イネにおいてこれまで機能が不明だった新規 RNA binging protein を原因遺伝子として特定することに成功した。このタンパク質は、イネにおいてWxb 遺伝子のスプライシングに特異的に関与することが示された。突然変異系統のデンプン構造については、アミロペクチンのグルカン鎖長解析を行ったところ、原品種と比較し15残基以下の短鎖が減少する一方で、中・長鎖が増加する特徴的なアミロペクチン構造が確認された。また、アミロペクチン合成に関わる酵素群の遺伝子発現解析を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和元年度~2年度の研究において、低アミロース性選抜系統の突然変異原因遺伝子の同定およびデンプン構造解析を計画した。突然変異原因遺伝子の同定については、昨年度絞り込んだ候補遺伝子の中から RNA binding protein に着目し、CAPS マーカを構築した。CAPS マーカの遺伝解析から、低アミロース性の表現型とRNA binding proteinの遺伝型は完全に一致した。また、最も近接する他のSNP についても、連鎖解析からその関与を排除することができた。以上のことから、当該遺伝子が低アミロース性の原因遺伝子であると判断された。また、本遺伝子の欠損は、アミロース合成遺伝子 (Wxb) の第一イントロンの選択的スプライシングにのみ関与することが明らかとなった。さらには、インディカ品種に見られるアミロース合成遺伝子のアレルである Wxa に対する作用を確認した。本変異系統と Wxa を有するホシユタカとの交配後代から、それぞれの遺伝子の組み合わせを有する系統を選抜しアミロース含量を測定したところ、本遺伝子の欠損は Wxb のみに特異的に作用し、Wxa のスプライシングには影響しないことが明らかとなった。本成果は、時間を要する交配等を先だって進めていたことから、予定していた研究計画を先行した結果を得ることができた。デンプン構造解析では、デンプンの80%以上を占めるアミロペクチンの構造に着目し、グルカン鎖長の解析を行った。原品種と比較し15グルコース残基以下の短鎖が減少する一方で、中・長鎖が増加する特徴的なアミロペクチン構造が確認された。また、本遺伝子の欠損はアミロペクチン合成に関わる酵素群の発現にも影響していることが明らかとなった。以上のように、当初の計画に従い実験が行われ、予定通りあるいはそれ以上の結果が出ていることから、順調に進展しているものと判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで実施した研究によって、当初目的としていた低アミロース選抜変異体の原因遺伝子の同定とその作用機序が明らかとなってきた。また、当該突然変異が低アミロース性のみならず、アミロペクチン生合成にも影響していることが示唆され、実際にアミロペクチンのグルカン鎖長の分布は原品種と異なることが明らかにされた。一方で、本変異体のデンプンの炊飯特性や加工物理特性についてはまだ不明な点が残されている。今後は、本変異体の炊飯特性や米粉にした場合の粉体特性など、食品加工としての重要な情報を蓄積していくことを目的として研究を進めていく。これらの成果は、今後、本変異系統を育種母本として使用するための有力な情報となる。さらに、同様な低アミロース性を示す新たな変異系統の選抜を進めることを計画している。これは、豊富な遺伝資源の確保というだけではなく、本研究課題で明らかとなった RNA binding protein がアミロース合成酵素の選択的スプライシングを行う際に、相互作用する別のスプライソーム因子を見つけ出せる可能性がある。本研究で明らかにされた RNA binding protein の作用機序の理解を深めるだけでなく、将来的な研究材料の獲得にもつながることから進めることとした。
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