2019 Fiscal Year Research-status Report
品質・食味がばらつく福島県内地域の米と除染水田産米の貯蔵物質蓄積構造の解明
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19K05990
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Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
新田 洋司 福島大学, 食農学類, 教授 (60228252)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡邊 芳倫 福島大学, 食農学類, 准教授 (30548855)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 福島 / 水稲 / 米 / 炊飯米 / 電子顕微鏡 / 品質 / 食味 / 貯蔵物質 |
Outline of Annual Research Achievements |
浜通り地域の南相馬市、楢葉町、川内村、中通り地域の福島市、大玉村、会津の会津若松市の計19の農家水田で栽培(有機栽培や自然農法ではない化学肥料主体の栽培方法)・収穫された水稲品種コシヒカリを供試した。米粒食味計で玄米および精米のアミロースおよびタンパク質含有率、食味値(参考)を計測した。また、精米を炊飯器で炊飯し、急速凍結-真空凍結乾燥法で凍結乾燥後、表面と割断面を白金で蒸着して走査電子顕微鏡で観察した。 米粒食味計で食味関連形質を計測した。その結果、浜通り、中通り、会津のそれぞれで、精米のアミロース含有率は 18.7~19.8、18.6~20.1、18.4~19.1%の範囲で、タンパク質含有率は6.4~7.5、6.5~8.6、6.2~6.8%の範囲で、地域間および同一地域内の水田間で差異があった。食味値(参考)は67.3~78.7、63.0~79.3、75.0~81.7の範囲で差異があった。 走査電子顕微鏡で炊飯米の表面を観察した結果、表面では明るく観察される部分(明部)よりも暗く観察される部分(暗部)の割合が多かった。明部では、糊の糸が伸展した細繊維状構造や網目構造、膜状構造が認められた。表面を含む表層部分を観察した結果、表面の暗部にあたる部分では、「おねば」の原因となる糊化デンプンが緻密に蓄積した層が認められた。中間部および中心部では、デンプンが細胞間およびアミロプラスト間をまたいで糊化した様相が観察されたが、糊化がアミロプラストの範囲でとどまった部分が認められるなど、糊化が進んでいない部分も認められた。 以上より、食味関連形質は会津産米で精米のアミロース含有率およびタンパク質含有率が低い傾向にあったが、同一地域内の水田間での差も大きく、一概に地域傾向は判断できなかった。炊飯米の微細骨格構造は全地域の米で糊化が進んでいたが、同一地域内の水田間差や地域傾向も認められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、福島県内の各地域の水田の土壌の理化学的特性、栽培・生産された玄米・精米の白度の測定、玄米の大きさおよび白色不透明部の有無と数の測定、玄米・精米の食味関連形質の測定、玄米の貯蔵物質の蓄積構造の電子顕微鏡観察、炊飯米の粘土特性の計測、を具体的な分析・解析項目としている。 2019年度はまず、米の品質・食味のばらつきの実態の概略を把握するために、福島県南相馬市地域および会津若松地域に着目して実験・研究を進める予定であった。しかしながらそれに加えて、浜通り地域の楢葉町、川内村、そして中通り地域の福島市、大玉村の水田と米も対象とし実施した。当初の予定よりも対象地域・米を拡大して実施することができた。 穀粒判別器および食味計による計測結果をもとに、上記の諸点に注目して調査し結果を得た。その結果、調査した浜通り、中通り、会津地域の米の品質・食味の大まかな特徴が把握できた。そして、炊飯米については糊化の特徴を把握できたが、同一地域内の水田間差や地域傾向が大きいことも判明し、これらは新たな解析課題となった。 なお、本研究の成果の一部は、日本作物学会東北支部講演会(2019年8月19日)、中国天津市で開催された国際シンポジウム(Tianjin Xiaozhan International Symposium on Rice Development and International Symposium on Rice Quality and Palatability Improvement、2019年9月2日)、日本水稲品質・食味研究会講演会(2019年11月1日)、「見える化セミナーin大熊町」(福島イノベーション・コースト構想推進機構主催、2019年12月19日)、大玉村講演会(2020年2月21日)、日本作物学会講演会(2020年3月26日)で発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は当初の予定どおりかそれ以上に進捗しており、今後は以下の視点から研究・実験を進める。 第1に、土壌の理化学的特性、栽培管理方法、収量および収量構成要素、気象条件等の把握である。水田の管理者、福島県・地域の農業改良普及センター等と連携して情報を得るとともに、福島大学に現有の機器でCECや土壌交換性陽イオン濃度を測定する。第2には玄米・精米の白度の測定である。新田ら(2006)および玉置ら(2007)の方法により、白度計等を用いて計測する。 第3に、玄米の大きさおよび白色不透明部の有無と数の測定を行う。目視および穀粒判別器で白色不透明部の有無および数を調査する。第4には玄米・精米の食味関連形質の測定である。新田ら(2006)および玉置ら(2007)の方法で、米粒食味計でアミロース、タンパク質および脂質の含有率等を測定する。 第5には、玄米の貯蔵物質の蓄積構造の走査電子顕微鏡観察である。玄米を凍結乾燥装置で凍結乾燥後、金属蒸着し、新田ら(2006)の方法で、アミロプラストおよびデンプン粒等の微細構造を走査電子顕微鏡で観察する。とくに、糊粉層におけるタンパク質および脂質の大きさや構造、デンプン貯蔵細胞における細胞層数、アミロプラストの増殖の様相や形状、デンプン粒の形状や数、アミロプラストおよびデンプン粒の密度がポイントである(新田 2010)。第6には、炊飯米の粘度特性の計測である。ラピッドビスコアナライザーは本学には保有していないため、学外への委託等を検討している。最高・最低粘度、ブレークダウン、コンシステンシーを、テンシプレッサーで炊飯米の粘り、硬さ、付着性を測定し評価する。 以上の結果をもとに、各年度で、上記項目の地域差、除染水田特有の貯蔵物質の蓄積構造の特徴がないか把握し、栽培管理方法等との関係で明らかにする。そして、最終年度には全体を総括する。
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Causes of Carryover |
2019年度の研究は、現地での調査や実験材料の調達、実験室内での実験など順調に進んだが、台風による水害の影響で、中通り地域および浜通り地域の米の試料収集が限られてしまい、その結果、実験を実施した点数や反復数が当初の予定よりも少なかった。このため、実験等に必要な試薬や消耗品類、謝金等が低減され、その結果として使用額に残が生じた。しかしながら、当初の目的どおりの成果をあげることができた。 使用額の残は、2020年度の研究において、2019年度に収集できなかった試料収集等を増強して実施し、研究の制度を高めるために使用する予定である。
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[Book] イネ大事典 上巻2020
Author(s)
農山漁村文化協会編、新田洋司他著
Total Pages
940
Publisher
農山漁村文化協会
ISBN
978-4-540-19157-2
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