2020 Fiscal Year Research-status Report
品質・食味がばらつく福島県内地域の米と除染水田産米の貯蔵物質蓄積構造の解明
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19K05990
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Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
新田 洋司 福島大学, 食農学類, 教授 (60228252)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡邊 芳倫 福島大学, 食農学類, 准教授 (30548855)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 福島 / 水稲 / 米 / 炊飯米 / 電子顕微鏡 / 品質 / 食味 / 貯蔵物質 |
Outline of Annual Research Achievements |
浜通り地域の南相馬市(14水田。品種天のつぶ、コシヒカリ、他)、葛尾村(4。ひとめぼれ、あきたこまち)、川内村(2)、中通り地域の大玉村(8。コシヒカリ)、玉川村(1。コシヒカリ)、会津の会津若松市(12。コシヒカリ)の計41の農家水田で栽培・収穫された水稲を供試した。 米粒食味計で食味関連形質を計測した結果、浜通り、中通り、会津のそれぞれで、精米のアミロース含有率、タンパク質含有率、食味値(参考)は、同一地域内、地域間および同一地域内の水田間で差異があった。これらの差の要因は、品種間差異以外では栽培方法の差異がもっとも大きく、ついで地域間差によるものであった。 走査電子顕微鏡で炊飯米の表面を観察した結果、表面では明るく観察される明部では、糊の糸が伸展した細繊維状構造や網目構造、膜状構造が認められた。表層部分を観察した結果、表面の暗部にあたる部分では、「おねば」の原因となる糊化デンプンが緻密に蓄積した層が認められた。中間部および中心部では、デンプンが細胞間およびアミロプラスト間をまたいで糊化した様相が観察されたが、糊化がアミロプラストの範囲でとどまった部分が認められるなど、糊化が進んでいない部分も認められた。また、南相馬市で栽培・販売を促進されるなど注目されている品種天のつぶでは、米粒の大きさが多い上に、中間部および中心部で糊化が進んでいない部分が多く認められ、食した際に「つぶ感」をもたらす要因であることが明らかになった。 以上より、福島県産米の品質・食味がばらつく要因は、品種間差が最大であるが、ついで地域間差ならびに栽培方法の差異によることが確認された。また、品種天のつぶを食した差異の「つぶ感」の要因が、大粒であることに加えて米粒の中間部および中心部で糊化が進んでいないことによることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、福島県内の各地域の水田の土壌の理化学的特性、栽培・生産された玄米・精米の白度の測定、玄米の大きさおよび白色不透明部の有無と数の測定、玄米・精米の食味関連形質の測定、玄米の貯蔵物質の蓄積構造の電子顕微鏡観察、炊飯米の粘土特性の計測、を具体的な分析・解析項目としている。 2019年度はまず、米の品質・食味のばらつきの実態の概略を把握するために、浜通り地域の南相馬市、楢葉町、川内村、中通り地域の福島市、大玉村、会津の会津若松市の水田と米を対象として実験を実施した。そして、2020年度は上記のように各調査地の水田を多くした上、玉川村(中通り地域)の水田と米を対象として加えて実施した。 穀粒判別器および食味計による計測結果をもとに、上記の諸点に注目して調査し結果を得た。その結果、調査した浜通り、中通り、会津地域の米の品質・食味の特徴が確認された。また、炊飯米のは糊化の特徴を把握できた。さらには、品種天のつぶを食した際の「つぶ感」の要因を明らかにすることができた。 なお、本研究では、多地域・複数品種を供試したことから、栽培制御方法と精米の糊化特性との関係や制御方法について検討した。しかしながら、環境的な要因が大きいことが判明し、明らかにすることができなかった。今後、継続して検討する。 本研究の成果の一部を、日本作物学会東北支部講演会(2020年8月18日)、日本作物学会講演会(2020年9月4日、2021年3月30日)、大玉村講演会(2020年10月20日)、玉川村講演会(2021年1月25日)等で発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は当初の予定どおりかそれ以上に進捗しており、今後は以下の視点から研究・実験を進める。 第1に、土壌の理化学的特性、栽培管理方法、収量および収量構成要素、気象条件等の把握の把握である。水田の管理者と連携し、従前からの耕種概要の情報を得て、土壌環境や肥沃度等の特性を把握する。また、必要により福島大学に現有の機器でCECや土壌交換性陽イオン濃度を測定する。第2に、玄米・精米の粒質の測定である。白度は新田ら(2006)および玉置ら(2007)の方法を参考にし、玄米の大きさおよび白色不透明部の有無と数の測定は、目視および福島大学に現有の穀粒判別器で調査する。第3には、玄米・精米の食味関連形質の測定である。新田ら(2006)、佐藤ら(2021)の方法で、米粒食味計でアミロース、タンパク質および脂質の含有率等を測定する。 第4には、玄米の貯蔵物質の蓄積構造の走査電子顕微鏡観察である。玄米を凍結乾燥装置で凍結乾燥後、金属蒸着し、新田ら(2006)の方法で、アミロプラストおよびデンプン粒等の微細構造を走査電子顕微鏡で観察する。とくに、糊粉層におけるタンパク質および脂質の大きさや構造、デンプン貯蔵細胞における細胞層数、アミロプラストの増殖の様相や形状、デンプン粒の形状や数、アミロプラストおよびデンプン粒の密度がポイントである(新田 2010)。 第5には、炊飯米の粘度特性の計測である。ラピッドビスコアナライザーは本学には保有しておらず、経費の関係もあるが必要により学外諸機関に委託分析等を検討している。最高・最低粘度、ブレークダウン、コンシステンシーを、テンシプレッサーで炊飯米の粘り、硬さ、付着性を測定し評価する。 以上の結果をもとに、各年度で、上記項目の地域差、除染水田特有の貯蔵物質の蓄積構造の特徴がないか把握し、栽培管理方法等との関係で明らかにする。そして、最終年度には全体を総括する。
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Causes of Carryover |
令和2年度はコロナ禍の影響により福島県内で対象とする水田や収集試料を本研究の遂行上必要不可欠な数に限定せざるを得ず、そのため実験等を効率よく実施することができたため。
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