2020 Fiscal Year Research-status Report
Basic study on hot water disinfection method without using chemical pesticide for seeds of various crops
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19K05991
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
金勝 一樹 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (60177508)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
村田 和優 富山県農林水産総合技術センター, 富山県農林水産総合技術センター農業研究所, 副主幹研究員 (80500793)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 種子温湯消毒 / 水稲 / 減農薬 / 病害防除 / 遺伝解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は、水稲種子の温湯消毒法において、種籾の水分含量を消毒前に10%未満まで落とすこと(事前乾燥処理)により高温耐性が強化できることを見出し、通常よりも5℃も高温の65℃で10分間処理する方法(高温温湯消毒法)を確立した。本研究では、①事前乾燥処理により高温耐性が強化される機構を遺伝学的な手法で解明し、さらに②生産現場でこの技術を普及させるとともに,水稲以外の作物種にもこの消毒法を適用するための解析を行っている。2020年度の成果の概要は以下のとおりである。 (1)事前乾燥処理の効果が顕著である水稲品種「Jinguoyin」と効果の低い「Kalo Dhan」の間で交配を行い、その後代系統を用いてQTL解析を行っている。2019年度のF2世代の解析に引き続き、本年度のF3世代の解析でも、事前乾燥処理による高温耐性強化機構にかかわる遺伝子座として「第1染色体上のQTL」が検出された。また、「事前乾燥処理なしでも潜在的に温湯消毒時の高温耐性が強い」という形質に関わるQTLについて、国際稲研究所(IRRI, フィリピン)が作成したジャポニカ品種集団(225品種)を用いたゲノムワイドアソシエーション解析(GWAS)を行った。その結果、これらのQTLは、「Jinguoyin」の持つ事前乾燥処理に関わる第1染色体上の遺伝子座とは異なることが示された。 (2)水稲種子の高温温湯消毒法を、生産現場で普及させるための実用的な事前乾燥処理条件について「日本晴」と「コシヒカリ」の種籾を用いて詳細に検討した。その結果、40~50℃で12~24時間加温して乾燥させる方法が実践的であることが示された。この方法を基盤として、水稲以外の作物種として大麦の種子について、麦芽製造を前提とした試験を実施した。現時点では、麦芽製造でも事前乾燥を行えば種子の温湯消毒が有効な消毒法になりうることが示唆されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度に行った解析により、以下の通りの成果が得られており、また最終年度に向けての準備状況も整えられているので、順調に研究を進めることができていると言える。 (1)水稲については、温湯消毒時の事前乾燥処理の効果が著しく異なる品種の組み合わせの交配(「Jinguoyin」×「Kalo Dhan」)の後代系統の育成が順調に進められている。2019年度は F2世代、2020年度はF3世代を用いたQTL解析が完了している。種子の形質は、生産年度等の栽培環境によって大きく異なることが知られているが、過去2年間の解析では、再現性良く第1染色体にQTLを検出できており、3年目の最終年度の試験を行えば、信頼度の高い結果を得ることができる。また、今後は第1染色体に絞った解析が可能となった。これらのQTL解析とは異なるアプローチとして、IRRIの開発したジャポニカ品種の集団を用いたGWASも行っており、種籾が潜在的に持つ高温耐性に関わる遺伝子は、「Jinguoyin」が持つ事前乾燥処理による高温耐性強化機構に関わる遺伝子とは異なるQTLとして検出された。さらに玄米から分離した胚を用いた実験も開始しており、「コシヒカリ」や「日本晴」では事前乾燥処理により「胚そのもの」の高温耐性が強化されることも明らかにされつつある。これらの解析結果を総合すれば、本研究の最終目的である「事前乾燥処理による種子の高温耐性強化機構の解明」に迫ることができると考えている。 (2) 本研究では、確立した高温温湯消毒法を実用的に普及することも重要であると考えている。水稲については、生産現場で実用的に高温温湯消毒を行うための事前乾燥処理条件を確立できている(投稿準備中)。水稲以外の作物としては、特に大麦にで、ビールの原料となる麦芽製造の過程に温湯消毒を導入できる可能性があり、麦芽製造の企業と連携した研究を開始している。
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Strategy for Future Research Activity |
現時点で、順調に成果が得られているが、種子の形質は生産環境により大きく異なることがあるので、研究の最終年度に向けて、再現性に留意しながら継続した試験を実施するとともに、以下の方向性で解析を行う。 (1)事前乾燥処理による水稲種籾の高温耐性強化機構については、「Jingouyin」×「Kalo Dahn」の後代系統を引き続き育成し、QTL解析を主体とした遺伝学的な解析を行う。2020年度のF3世代の解析では、QTLは問題なく検出できたが、親系統の「Jingouyin」と「Kalo Dahn」の品種間差がそれほど顕著ではない傾向があった。今後はその点に注意して温湯消毒条件を詳細に検討しながら解析を進める。また最終年度は、第1染色体に検出されたQTLの近傍の領域について集中してDNAマーカーを配置し、遺伝子の座乗位置の絞り込みを行う。さらに、「日本晴」と「コシヒカリ」の解析では、事前乾燥処理は「胚そのもの」の高温耐性を強化する効果があることが明らかになりつつある。この点については品種数を増やして詳細な解析を行う。これらの結果を踏まえて、事前乾燥処理の効果について、分離した胚を対象としたプロテオーム解析やトランスクリプトーム解析等の網羅解析を行うことも検討したい。 (2)水稲以外の作物種については、まずは大麦を対象として、麦芽の製造過程での温湯消毒法の導入の可否を検討する。特に麦芽製造の過程では、カビが発生することがあり、その防除効果に視点を置いた消毒条件の確立を目指す。また大麦では、栽培条件や品種間差等に関する知見も水稲と比べると不足しているので、この点についても麦芽製造の現場と連携しながら研究を進めていく。その他の作物種としては、由来の明らかな種子の入手が可能な小麦、タバコ、ペチュニア、アサガオ等について、温湯消毒法における事前乾燥処理の効果について解析する。
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Causes of Carryover |
昨年度に引き続き、2020年度もコロナ禍により予定していた推進会議や学会発表は全てオンラインで実施することになった。それに伴い、計上していた旅費を使い切ることはなかった。これらの予算は、2020年度中にも分析用試薬等の購入に用いたが、2021年度はDNAマーカーの整備をはじめとした分子生物学的な解析が増えることになるので、その費用に充てることになる。
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Research Products
(2 results)