2020 Fiscal Year Research-status Report
オイルボディを介した植物のレジリエンス獲得の分子機構の研究
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19K06039
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
高橋 秀行 東海大学, 九州教養教育センター, 准教授 (00455247)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 紀美子 新潟大学, 自然科学系, 教授 (10281007)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 花卉 / リンドウ / 休眠 / オイルボディ |
Outline of Annual Research Achievements |
多年生植物は,冬芽のなどの休眠器官を形成し,休眠することで耐冷性・耐凍性を獲得し越冬する.その後,春になりストレスが解除されると萌芽し成長を開始する.先行研究から,萌芽に関して,貯蔵脂質であるトリアシルグリセロール(TAG)を蓄積するオイルボディが,成長回復(レジリエンス)を調節することで萌芽の成立に関わる可能性が見出されている.本研究では,オイルボディおよび関連遺伝子の機能同定から,リンドウのレジリエンス獲得機構の解明を目的とする. 本年度は,クローニングにより配列が決定したオイルボディ及びTAG合成との関与が予想される遺伝子について,圃場栽培されたリンドウ冬芽における発現解析を中心に解析を実施した.昨年度に配列決定した遺伝子について経時的な発現挙動を調査したところ,殆どの遺伝子にはレジリエンスと関連した挙動は観察されず,オイルボディ形成に関わる経路の特定には至らなかった.しかし,ジアシルグリセロール(DAG)からTAGを合成する酵素をコードするDGATにおいて他発休眠期特異的な発現上昇が確認されたことから,オイルボディ形成時にDAGに脂肪酸を付加する反応が誘導されTAGが蓄積することが示唆された. さらに,オイルボディ関連遺伝子の発現挙動解析を行なった.オイルボディに含まれるタンパク質をコードする遺伝子について,冬芽の葉と茎頂における発現を経時的に調査した結果,これら遺伝子の発現は自発休眠期には殆どみられないが,他発休眠期に一時的に増加した後,萌芽期に減少する傾向があることが明らかとなった.この傾向は茎頂で顕著であり,成長点におけるオイルボディの形成および分解とレジリエンスとの関与が推測された.今後,ペルオキシソームにおけるエネルギー産出経路との関与を調査することで,より詳細なレジリエンス機構の解明が進むことが期待できる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題では、①,②,④のサブテーマからオイルボディを介したレジリエンス機構の解明を進めている。本年度は,サブテーマ②GtOBAP1の機能解析,サブテーマ④冬芽休眠におけるレジリエンス機構の解明に関わる研究として,TAG合成経路ならびにオイルボディ関連遺伝子についてリアルタイムPCRによる発現挙動解析を行ない,TAG合成の最終ステップに関わる遺伝子をほぼ同定した.リンドウ冬芽の休眠期におけるオイルボディ形成のメカニズムは現在まで明らかになっておらず,レジリエンス獲得に係るエネルギー源の証明には至っていなかったが,本年度の成果によりエネルギー源と予想されるTAGの蓄積メカニズムの一端が明らかとなった.オイルボディの主な内容物であるTAGの合成が自発休眠期から他発休眠期にかけて顕著に誘導されることを示す結果が得られたことにより,TAGのエネルギー調節との関与やオイルボディ形成との関与が示唆された.さらに,オイルボディ関連遺伝子の発現挙動から,休眠状態の変遷がTAGの蓄積から分解への相転換に関与する可能性が見出された.本成果は,人為的な低温ストレスの付与および解除と同様に,実環境下においてもレジリエンス機構が発揮される可能性を示している.また本年度,モノアシルグリセロール(MAG),DAG,TAGの定量方法を確立し,測定サンプルの抽出も終了した.現在得られている成果と研究計画を対比して、当初の目標は充分に達成されており、今後も計画通りに研究を実施する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は,サブテーマ②,③,④について解析を実施する.これまでの研究から関連性が見出されているMAG,DAG,TAG,および脂肪酸について,低温ストレス処理時からストレス解除までの挙動を明らかにする.本年度の成果から,リンドウ冬芽では1種類のMAG,8種類のDAG,14種類のTAG,9種類の脂肪酸の同定および定量に成功している.これら脂質について,WTとobap1ゲノム編集個体で定量し,低温ストレス処理時および低温ストレス解除時の変動を明らかにすることでレジリエンス獲得に関わる脂質の同定と関連する代謝経路の検出を行なう.さらに,TAGから遊離した脂肪酸は,ペルオキシソームにおけるβ酸化を経てATP合成に用いられる.β酸化に関与する酵素遺伝子については本年度クローニング済であり,最終年度に発現解析を実施する.また,当初の計画には含まれていなかったが,本年度の成果で関与が予想されたオイルボディ関連酵素については現在ゲノム編集個体の選抜を進めており,obap1ゲノム編集個体と同様にレジリエンス機構に影響が見られるかを調査する予定となっている.オイルボディのプロテオーム解析に関しては,オイルボディの精製方法ならびに蛋白質抽出方法を改良し,WTとゲノム編集個体に蛋白質レベルで変化が見られるかを調査する予定である.
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Causes of Carryover |
本年度に全てのサンプルについて脂質解析を実施する予定であったが,解析の精度を上げるため,本年度は脂質の同定ならびに定量方法の確立を進めた.それに伴い,定量解析に使用する予定であった汎用機器,消耗品ならびにランニングコストに差額が生じている.次年度は,野生型と形質転換体について脂質解析を実施する予定である.
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