2020 Fiscal Year Research-status Report
植物病原糸状菌による宿主プラスチド崩壊とデンプン分解の分子メカニズム解明
Project/Area Number |
19K06056
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
八丈野 孝 愛媛大学, 農学研究科, 准教授 (10404063)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | オオムギうどんこ病菌 / デンプン / プラスチド崩壊 / グルコアミラーゼ / エフェクター |
Outline of Annual Research Achievements |
オオムギうどんこ病菌(Blumeria graminis f. sp. hordei)は、光合成を行わない表皮細胞のみに感染し栄養を摂取する。表皮細胞のプラスチド内にはデンプンが存在しており、葉肉細胞から転流した糖をプラスチド内でデンプンとして貯蔵していると考えられる。本菌を接種すると侵入するタイミングでデンプンが減少していく。そこで、本菌の侵入により表皮細胞内のプラスチドに含まれるデンプンが消失するメカニズムを解明することを目的として、プラスチド局在型のGFP(tpGFP)を発現させた形質転換オオムギ系統を作製してプラスチドの動態解析を行った。その結果、侵入部位付近では、プラスチドの形状ではなく、分散したようなGFP蛍光が観察されたことから、何らかのメカニズムでプラスチドが崩壊したために内部のGFPが漏出したのではないかと考えられた。この結果から、プラスチドの崩壊により内部のデンプンが露出すると考えられたため、それを可視化するために、プラスチドに移行してデンプンに結合することが知られているGBSS(Granule bound starch synthase)のC末端にmCherryを融合させたコンストラクトを発現させ観察した。GFP蛍光とmCherry蛍光を同時に解析する実験系の構築に成功し、GFP蛍光を発するプラスチドの内部にデンプン粒の形状を示すmCherry蛍光が観察された。本菌を接種後、侵入部位付近において露出したmCherry蛍光を観察することができた。しかし、観察例がまだ少ないため引き続き行う必要がある。プロテオーム解析により、プラスチド崩壊を引き起こす因子の候補を4つ得ており、過剰発現及び発現抑制の効果を解析している。 本菌が分泌するタンパク質の中からアミラーゼ様タンパク質としてAPEC29を同定している。APEC29は宿主表皮細胞内のプラスチドには局在しないことから、露出したデンプンを基質とすると考えられる。アミラーゼ活性を有するかどうかについても解析している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
侵入部位付近でプラスチドの崩壊が引き起こされ、内部のデンプンが露出する可能性を見出している。tpGFP形質転換体の子葉鞘表皮細胞にGBSSをコードするWaxy遺伝子の下流にmCherry遺伝子を連結したコンストラクトをパーティクルガンで導入し、プラスチド内のデンプンを可視化する実験系を構築した。その細胞にオオムギうどんこ病菌を接種すると、侵入部位周辺に集められたプラスチド(GFP蛍光)の多くは内部にデンプン粒(mCherry蛍光)を含んでいるが、GFP蛍光に囲まれていないmCherry蛍光、つまり露出したデンプンが存在することが明らかとなった。観察例がまだ少ないため、定量的な解析が可能となるような条件を探している。プラスチドを崩壊させる因子としてオオムギ自身の候補タンパク質を4つ得ているが、侵入時にもっとも発現量が高い2つについてはクローニング途上である。一方で発現量が下位の2つについては先行してコンストラクトが完成したため、過剰発現の効果の有無を解析した。崩壊の定量的な解析法が確立されていないため不確定ではあるが、プラスチドの崩壊を促進するような効果は今のところ観察されていない。
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Strategy for Future Research Activity |
プラスチドの崩壊による内部デンプンの露出をGBSS-mCherry蛍光を利用することにより観察できているが、安定して観察できる条件を見つけることができていない。蛍光顕微鏡下で経時的に観察するためには、一層の細胞層に調整した子葉鞘表皮細胞の調整方法を改善することがもっとも効果的であるため、焦点が長時間ずれないように加工の方法を検討する。GBSS-mCherryが導入された細胞にオオムギうどんこ病菌を確実に接種するためには、一般的な自然落下法では確率が低い。そのため、マイクロマニピュレーターを用いて任意の細胞に本菌分生子を接種する。プラスチド崩壊を引き起こす候補因子の過剰発現及び発現抑制コンストラクトを導入し、プラスチド崩壊を促進あるいは抑制するか調査する。また、本菌接種後のプロテオーム解析よりオオムギ自身の他の酵素の蓄積量も増加することを見出しているため、プラスチド崩壊とは独立したデンプン分解促進メカニズムについても解析する。また、APEC29がアミラーゼ活性を有するかin vitroで測定するために、大腸菌にタンパク質を合成させ精製し、活性を測定する。
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Research Products
(5 results)