2019 Fiscal Year Research-status Report
Evasion of plant innate immunity by complex formation between host and viral proteins
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19K06060
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
井村 喜之 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (50366621)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ウイルス / 潜性抵抗性 / タンパク質間相互作用 / 宿主因子 / 複製 / 感染 |
Outline of Annual Research Achievements |
キュウリ近交系A192-18は植物ウイルスの最大グループであるポティウイルスに対して免疫性を示し,これはVPS4遺伝子の変異に起因することをこれまでの研究から明らかにしている。そこで,令和元年度の研究では酵母を用いてVPS4と相互作用するウイルスタンパク質を調べた。ポティウイルスのゲノム上にコードされている11種のタンパク質のうち,7種のタンパク質が罹病性キュウリ由来VPS4と相互作用した。この中で,RNAサイレンシングサプレッサーとして機能するHC-proなどの6種のタンパク質は変異型のVPS4とは相互作用しなかったが,1種は変異の有無に拘らず相互作用した。変異型VPS4は,罹病性キュウリにおいてウイルスの複製および感染を阻害することから,令和2年度以降の実験では,相互作用の特異性とウイルス複製との関係性を解析することを計画している。 また,罹病性キュウリにおいてVPS4はウイルス複製において必須の役割を担っているが,本タンパク質の過剰発現は細胞の壊死を引き起こし,ウイルス増殖量が有意に低下する。そこで,VPS4を過剰に発現誘導させたキュウリ組織において,発現変動する遺伝子をRNA-seqにより網羅的に解析した。VPS4発現上昇により変動する複数の遺伝子を明らかにし,特に分子シャペロンをコードする遺伝子はVPS4量と同調的に発現変動した。本遺伝子をウイルスゲノム由来cDNAに組込み,罹病性キュウリにて共発現させた組織では,VPS4を過剰発現させた場合と同様にウイルス感染による病徴が現れなくなった。分子シャペロンはこれまでにウイルスの複製や細胞間移行に関与することが報告されており,VPS4と同様にポティウイルスの複製および感染に必須なタンパク質である。すなわち,ウイルスはこれらの因子をリクルートすることで,防御誘導を回避しつつ自身の感染に利用していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題で明らかにしたい現象は大きく分けて2点ある。まず1点目は,宿主因子であるVPS4タンパク質を介したポティウイルスの複製および感染機構を明らかにすることである。2点目は,ウイルスが複製および感染のために宿主因子をリクルートすることによる宿主側の防御応答の変化を解明することを目指している。1点目の解明に向け,令和元年度は酵母を用いたタンパク質間相互作用解析によって,VPS4と相互作用するウイルスタンパク質を特定することができた。これらのウイルスタンパク質のほとんどは抵抗性キュウリが保持する変異型VPS4とは相互作用しなかったが,1つのタンパク質は変異型VPS4とも相互作用した。これまでの研究において,変異型VPS4を罹病性キュウリで発現させるとウイルス複製および増殖を著しく抑制することが判明していることから,タンパク質間相互作用の特異性の解明は,この拮抗的メカニズムとウイルス感染におけるVPS4の役割を明らかにするための大きな一歩となり得る。 2点目の解明に向け,VPS4タンパク質の発現量と同調的に発現変動するタンパク質をコードする遺伝子をRNA-seq解析により網羅的に調べた。この中には病原体の攻撃に対する防御反応に関与する複数のタンパク質や分子シャペロンなどをコードする遺伝子が見出された。活物寄生性のウイルスが生存を継続させるためには,宿主に深刻なダメージを与えずに自身の増殖や感染に必要な宿主因子を奪取する必要がある。この宿主因子の選択的利用の先には,ウイルスに対する攻撃に関わる因子をも選択的に利用していると考えられる。本実験から,防御誘導に関わる複数の遺伝子がVPS4の発現上昇と共に発現誘導されたことから,本仮説を立証するための土台を構築できたと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
令和元年度の研究により,VPS4とウイルスタンパク質の相互作用の特異性を解析した。そこで,令和2年度ではウイルス複製を亢進する複製複合体を明らかにするため,FLAGタグを付加させたVPS4を罹病性キュウリにおいて発現誘導させ,ポティウイルスを接種および感染させる。その後,抗FLAG抗体を用いたプルダウンアッセイによりin plantaでのVPS4を中心とした複合体の構成タンパク質を回収する。回収したタンパク質はSDS-PAGEにて展開後,LC/MS/MSを用いたアミノ酸配列より特定する。この罹病性キュウリにおける複合体形成は,抵抗性キュウリが保持するVPS4の変異によりどのように変化するのかを調べることを計画している。同時に,酵母を用いたタンパク質間の相互作用がウイルスの感染の場である植物細胞内でも引き起こされるか,さらに相互作用は細胞内のどこで行われるのかについて,蛍光タンパク質再構成法(BiFC)によって明らかにする。 ウイルスはさまざまな宿主因子を奪取することで自身の増殖および感染に利用している。すなわち,ウイルスが増殖している組織内では,奪取される宿主タンパク質が量的に著しく低減していると考えられる。この量的な低減が,宿主組織における防御応答の抑制や遅延を招くものと推察される。そこで,宿主因子をウイルスが増殖や感染に必要とする量以上に発現誘導させた,すなわち過剰発現させた組織にウイルスを接種および感染させる。この組織におけるウイルス蓄積量を定量RT-PCR法により経時的に調べるとともに,抵抗反応誘導のマーカーとなる各種防御遺伝子の発現変動を同手法により解析することを計画している。
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Research Products
(3 results)