2019 Fiscal Year Research-status Report
社会性アブラムシの建築生物学―植物ゴール内ホメオスタシスと社会制御ー
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19K06068
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
柴尾 晴信 筑波大学, 生命環境系, 研究員 (90401207)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松山 茂 筑波大学, 生命環境系, 講師 (30239131)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 社会性アブラムシ / 植物ゴール / ホメオスタシス / 階級分化 / 季節多型 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は次の2点について解析を進めた。(1) アブラムシ・ゴールの構造と機能:植物組織であるゴールは適応性のある構造物か?(2)ゴール内ホメオスタシスの破綻機構:アブラムシはなぜ破綻を未然に察知し、ゴール枯死前に有翅虫となって脱出できるのか? (1)に関しては、ゴールの上半部と下半部とで構造や機能に違いがないかを比較した。その結果、日光を受けやすい上半部のほうが、そうでない下半部よりもゴール壁が肥厚しており、紫外線や可視光線をカットする効果が高かった。また、緑色をしたゴール組織の可視域の吸収スペクトルは、葉のそれとよく似ており、短波長域と長波長域が高く、中波長域が低かった。この吸収パターンはゴール上半部においてより顕著であった。一方、枯れ始めた、黄色~茶色のゴールでは、はっきりした吸収パターンは観察されなかった。これらのことから、若い緑色のゴールは光合成能を有することが示唆された。 (2)に関しては、ゴール内の光環境(光量子束密度: photons・m-2・s-1)の季節変化について調べた。その結果、6月の若いゴールでは、まだアブラムシが少なく、ゴール内に到達する光の量はゴール表面に降り注ぐ光の量の約1~2割程度であったが、7月下旬~8月初旬にかけてアブラムシの個体数が急増し、ゴール内壁を覆い尽くすほどになると、ゴール内に届く光の量は1割以下と少なくなった。さらに9月のゴールでは、枯死した組織によって光が遮断され、ゴール内は著しく暗くなった。飼育実験から、アブラムシが明るさを認識するには、白色LEDによる光強度でみると、光源から10cmの距離で1.3×1024 photons・m-2・s-1(約100ルクス)よりも強い光が必要であることが分かった。たとえ外界が長日条件でも、ゴール内部の光強度が弱くなると、アブラムシは「短日」と認識し、有翅虫に分化することが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の重要な進展は、植物組織であるアブラムシ・ゴールが適応性のある構造物である可能性を示せたことである。ゴールの機能として、ゴール表面に降り注ぐ紫外線からアブラムシを守ることのほか、ゴール内でアブラムシの呼吸により生じた二酸化炭素を利用して光合成を行ない有機物を合成したり、ゴール内と大気との間でガス交換を行なうことなどが想定される。 また、アブラムシはなぜゴールの破綻を未然に察知し、ゴール枯死前に有翅虫となって脱出できるのか?という疑問を解決する手がかりのひとつが得られた。アブラムシのゴールは長寿命で内部環境が安定しているが、生きた植物の組織からなるため、やがて枯死する。盛夏が過ぎ、秋にゴールが枯死し始める頃にはベストなタイミングで有翅モルフが分散可能になっているが、これには季節の進行に伴うゴール内でのアブラムシの急増殖によってゴール枯死に先んじてゴール内に到達する光の量が少なくなることが関係していた。日長反応においてアブラムシが光と感じる明るさは、光量子束密度で表すと1.3×1024 photons・m-2・s-1であり、照度で表すと100 luxよりも明るい光であった。このことから、たとえ安定したゴール内環境であっても、ゴール内の光強度が低下すると、彼らはそれを「短日」と認識して、有翅モルフになって分散するための準備を始めることが分かった。
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Strategy for Future Research Activity |
アブラムシのゴールが適応性のある構造物であるかについてさらに検証を進める。ゴールの上半部と下半部とで、外部形態と内部形態の観察を行なうとともに、ゴールの生理的機能の評価を行なう。ゴールの光合成能、栄養貯蔵能、ガス交換・蒸散作用を測定し、ゴールが巣内環境を調節する仕組みを明らかにする。 ゴール内の安定した環境でアブラムシが季節を察知するしくみを明らかにする。季節の進行に伴うゴール内の光強度や温度、個体数密度、ガス濃度などの微変動を定量化する。近接リモートセンシング手法により、季節変動に伴う野外ゴールのストレス状態や環境調節能力の変化をモニタしながら、実験室で巣内環境の変動を再現して表現型(兵隊階級/有翅モルフ)の切り替えが起こるかを観察する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの感染リスクを避けるため、予定していたアブラムシの現地調査や日本応用動物昆虫学会への参加を取りやめたために次年度使用額が生じた。この次年度使用額は次年度の配分額と合わせて試薬を購入して使用する。
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Research Products
(2 results)