2020 Fiscal Year Research-status Report
卵細胞の成長時期に応じた輸送は栄養管によってどのように制御されるか
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19K06072
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Research Institution | Kyoto Institute of Technology |
Principal Investigator |
高木 圭子 京都工芸繊維大学, 応用生物学系, 准教授 (30401938)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 端栄養型卵巣 |
Outline of Annual Research Achievements |
昆虫の卵巣は構造の違いから大きく3つに分類される。コウチュウ目などは端栄養型卵巣呼ばれる卵巣を持つ。このタイプの卵巣では、生殖細胞の分裂が完了した後、一部の細胞は卵細胞に分化し、残りの細胞が全て保育細胞となる。保育細胞の分離は不完全で、すべての細胞がつながっており細胞質を共有するシンシチウムを形成する。卵細胞と保育細胞を唯一つなぐのは、栄養管と呼ばれる管上の構造である。保育細胞のシンシチウムは、常に複数の異なる成長段階の卵細胞と連絡している。卵細胞を成長時期特異的に制御するためには、卵細胞の状態を保育細胞が認識し、それに応じた物質を供給しなければならず、両者の間に情報のやり取りをする何らかの機構が存在することが予想される。しかしシンシチウムである保育細胞が、長い時には数百μmにも及ぶ栄養管を介して、どのように異なる成長時期の卵細胞に、選択的に物質を供給しているのか、そもそも選択的な物質の供給が行われているのかを含めて、全くわかっていない。我々はまず、輸送機構に関わる分子を特定するために、RNAiによって物質輸送に関わると予想される、分子の遺伝子を抑制し、卵巣への影響を解析した。キネシンとダイニンのRNAiが卵巣の異常を誘導したが、その特徴は予想外のもので、おそらく栄養管との関連は無いものであった。また、保育細胞と卵細胞で発現する遺伝子の差を調べるためにRNA sequencesによる解析を行ったところ、卵巣の保育細胞が集まる部分であるTropharium、卵細胞が集まる部分であるVitellarium、共通して発現する遺伝子がそれぞれ得られ、現在解析中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は、物質予想に関わると予想される分子の遺伝子のRNAiによる機能解析を行うため、いくつかの遺伝子に対してdsRNAを合成し、コクヌストモドキに注射し、卵巣に現れる表現型を解析した。キネシンI遺伝子のRNAiは、卵細胞を包む体細胞の濾胞細胞が、正常な一層の構造を保てない表現型を示した。この表現型は、常に卵黄合成期初期の濾胞細胞で見られる。この表現型はおそらく栄養管には依存しないと考えられるが卵黄合成期初期は、特別な時期であることから、この表現型にも何らかの重要性があると予想し、キネシンIのRNAiの解析を行い、学術誌Journal of Insect Biotechnology and Sericologyにて、その結果を発表した。 次年度では、保育細胞と卵細胞で発現する遺伝子の差を調べるためにRNA sequencesによる解析を行ったところ、卵巣の保育細胞が集まる部分であるTrophariumで特異的に発現する遺伝子数は1509、卵細胞が集まるVitellariumで特異的に発現する遺伝子数は358、共通して発現する遺伝子は8829あった。発現量の多かった遺伝子を比較してみたが、Tropharium、Vitellariumの局在で、共通点や相違点などは今のところ認められていない。また、昆虫ホルモンに関連する遺伝子の発言が認められた。いくつかの遺伝子をRNAiでノックダウンしたが、今のところ明確な異常は得られていない。 卵黄合成期初期は卵細胞の成長の進行のチェックポイントとなる時期であり、ストレスに応答して卵細胞の生死を分ける。この卵細胞の発育時期特異的な制御に栄養管での輸送が関与するか解析するため、飢餓状態が卵黄合成期初期に与える影響を解析している。現在までに飢餓への応答は、インスリンを介し、遺伝子発現を伴わないことを示唆する結果を得ている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題はおおむね研究計画に沿って進行しているが、予想外の結果も得られていることから、当初の計画に加えて新たに実験を追加しながら進行している。 RNA sequenceの結果から、TrophariumとVitellariumそれぞれに特異的に存在するmRNAが得られ、現在realtime-qPCRや、RNAiなどを用いて解析中である。なかでも、昆虫ホルモンの合成酵素などの発現が確認されたことから、そのホルモンの投与や、受容体のRNAiなどを中心に解析を行う予定である。また、栄養管による物質輸送により制御される可能性のある、卵黄合成期初期の濾胞における、ストレス下での生死を分けるチェックポイントとしての機能の解析が進行中であり、今後はさらなる解析を進める予定である。RNAiや、試薬の個体への投与などを行い、時期特異的なストレス応答へ関与する分子を特定する。
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