2020 Fiscal Year Research-status Report
The change in oviposition preference of phytophagous insect by plant drought stress
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19K06074
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
大村 尚 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 准教授 (60335635)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤井 毅 摂南大学, 農学部, 講師 (30730626)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 植食性昆虫 / 寄主選択 / チョウ / 産卵 / 水ストレス / 一次代謝産物 / ヒドロキシ酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
1)寄主植物であるネムノキ・メドハギ、非寄主植物でありながらキタキチョウが産卵するカタバミから、エリスロン酸、トレオン酸を共通の産卵刺激物質として同定した。両成分は水溶性酸性画分に含まれており、植物中の濃度で十分な活性を発現した。エリスロン酸は植物一次代謝産物中間体であり、トレオン酸はアスコルビン酸のストレス分解物として植物中に広く存在することがしられている。 2)ネムノキ・メドハギ野生株葉中のピニトールの動態を調べた。4月~10月に週一で新鮮葉を採取し、メタノールで抽出した。抽出物をTMS誘導体化してGC-MSで分析し、各成分の新鮮葉中の濃度を求めた。ネムノキでは、ピニトールが季節と共に漸増し10月に最大濃度2%に達した。メドハギでは、ピニトール量が0.8~2.3%の間で変動し、春よりも秋において高い傾向を示した。くわえて、2つの植物中でのエリスロン酸、トレオン酸濃度の定量も試みたが、既存の質量分析計では明瞭なピークを検出できなかった。 3)キタキチョウ雌雄成虫の虫体を部位毎に分割し、各サンプルのRNA-seqを行い、2つの味覚受容体候補遺伝子を見いだした。一つはカイコ味覚受容体遺伝子BmGr10に類似のアミノ酸配列をもち、雌の脚において多く発現していた。もう一つは、部分配列ではあるがナミアゲハ味覚受容体遺伝子との相同性を持ち、雌の脚において多く発現していた。 4)雌前脚20本以上を用いてピニトール標品に対する味覚応答をチップレコーディング法で調べたが、ピニトール応答が確認できたのは2本のみであった。前脚は内部抵抗が高く、電極を変えるなどしたがS/N比は改善しなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)産卵を制御する植物化学成分の探索は計画通り進捗している。これまで未解析であった酸性画分からエリスロン酸、トレオン酸を同定したことで、中性画分より同定したピニトール、塩基性画分より同定したグリシンベタインとあわせて、マメ科に含まれるキタキチョウの産卵刺激物質のほぼ全てを明らかにした。同時に、エリスロン酸、トレオン酸が非寄主植物への‘誤’産卵要因になっていることを明らかにした。 2)寄主植物における産卵刺激物質の季節変動の検証は、目的を完遂した。ピニトールの季節変動も明らかにしたともに、2つの寄主植物(ネムノキ、メドハギ)では異なる動態を示すことがわかった。これより、本種の寄主植物に対する産卵選好性が季節によって変化することの化学的根拠を明らかにした。 3)植物の水ストレスが本種の産卵選好性に与える影響を調べる生物試験は、コロナ禍で長期的な実験ができず、進捗が遅れている。 4)産卵刺激物質に対する雌成虫の味覚応答は、条件を変えて予備検討を繰り返したが、安定した応答をとることができなかった。既存の実験装置では試験体(前脚)の内部抵抗を下げることができず、明瞭な応答が測定できないと結論した。 5)味覚受容体の遺伝子解析は、雌の脚に特徴的な候補遺伝子2つを特定でき、順調に推移している。
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Strategy for Future Research Activity |
1)同定したエリスロン酸、トレオン酸の標品をもちいて、キタキチョウ産卵反応の濃度応答曲線、ピニトールとの協力作用について調べる。本種が産卵しないマメ科植物であるカラスノエンドウ、スズメノエンドウについて成分分析を行い、既知の4種類の産卵刺激物質の存在を確認する。また、両マメ科植物においてキタキチョウの産卵阻害物質を探索し、本種の産卵選択は主に産卵阻害物質によって決定されることを確かめる。また、非寄主植物であるカタバミについても産卵阻害物質の探索を行う。 2)ポット植えの栽培ネムノキをもちいて、水ストレスにともなうキタキチョウ産卵刺激物質(ピニトール、エリスロン酸、トレオン酸)の濃度変化を調べる。また、健全株とストレス株をもちいて母チョウの産卵選好性をしらべ、水ストレスが寄主選択(産卵)におよぼす影響を定量的に評価する。 3)RNA-seqで見いだした2つの候補遺伝子について、部分配列しか得られていない遺伝子については全長配列を取得するとともに、PCRで両遺伝子の増幅を試みる。また、機能解析の一環として、ピニトール受容にかかわる事が予想されるイノシトール受容体およびベタイン受容体のホモログ探索をおこなう。
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