2020 Fiscal Year Research-status Report
Culture collection of terrestrial cyanobacteria related to black stains on Okinawa buildings
Project/Area Number |
19K06090
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
須田 彰一郎 琉球大学, 理学部, 教授 (00359986)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | シアノバクテリア / 気生 / 16S rRNA / 16S-23S ITS / 分類 / 分子系統解析 / 形態 / 系統分類 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、沖縄の建造物等の黒い着色の原因となる気生シアノバクテリアの生態的な情報を得ると共に分離培養と多相分類法による正確な分類を行い、確立した保存株を将来的には公的な株保存機関への寄託を行うことで様々な研究に用いることができる基盤を構築することである。 建造物の黒い着色過程を調べるために、普段人の出入りが無い校舎の屋上に生育実験用の滅菌した石材タイルを設置し、生育状況のモニタリングを開始した。モニタリングは、日射量の多寡で3ヶ所と定期的な水分および培養液の添加処理の4処理の合計12処理区で比較している。6ヶ月が過ぎた段階では、水分処理に関係無く、直射日光の無い処理区で肉眼的な生育が認められてきており、どの様なシアノバクテリアの生育があるか分離培養を始めた。 新型コロナウイルスの影響で初年度の石垣島・西表島での採集以来、離島での採集を行うことは控えているが、代わりに、校舎の屋上や壁から新たな分離培養を行なっている。確立されている分離培養株からは、16S rRNA領域の遺伝子解析により単細胞タイプでは、GenBankの塩基配列との相同性からChroococcidiopsis, Myxosarcina, Gloeocapsopsis, Cyanosarcina, Aliterella属などに近縁な株が、異質細胞を持つタイプでは、ネンジュモ様の10株は、Desmonostoc, Nostoc, Violetonostoc,近縁な属が無い未記載属の株が、糸状タイプでは、Nodosilinea属の2未記載種(第12回国際藻類学会で発表)、近縁な属が無い未記載属の株などが明らかになっており、それらの株について、16S-23S ITS領域の解析やその二次構造解析を進めると共に形態分類学的な解析を行い、研究発表から論文化を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルスの影響により、予定していた新たな分離培養株の採集を目的とした沖縄離島への旅行、国内・国際学会への直接的な参加を見合わせることになり、計上予算の大きな部分を占めていた旅費(国内・国外)の大部分を来年度に繰り越す形になった。また、学生と共に行う沖縄本島内での採集のための移動も憚られる状況にあり、沖縄本島各地での研究材料の確保も行っていない。その代わり、大学構内からの採集と、校舎の屋上での黒い着色過程のモニタリング実験を開始した。途中経過ではあるが直射日光が当たる環境に比べて、当たらない環境の方が気生シアノバクテリアの生育が認められる傾向にあり、水分や栄養分の供給はほとんど影響がない様である。一方、確立されている株については、菌類や他のシアノバクテリアの混在が無いことを確認し、全ての株についてDNA抽出から16S rRNA, 16S-23S ITS領域の塩基配列情報を得るべく進めている。一部(特に異質細胞を持つ株)では、目的PCR産物を得るためにゲル切り出し処理が必要な場合もあるが、概ね順調である。 西表島から分離培養され、遺伝的に近縁な種類が無い未記載属と思われる株の分類学的な研究を行うために、同じ場所から初年度に採集したサンプルから新たに4株を確立することができた。沖縄本島や西表島のガードレール上に巨視的群体を形成する未記載種と思われる異質細胞を持つ株が得られた。これらの他にも16S rRNA遺伝子の系統解析により、多くの未記載種はもとより未記載属になる可能性のある株も得られている。これらについて個別に詳細な分類学的研究を行う必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
確立した分離培養株の整理を継続し、正確な分類を行う。特に、いくつか未記載種や未記載属の可能性がある株を優先する。確立した分離培養株全ての16Sと16S-23S ITS領域の塩基配列を解析し、基本情報として整備し、これらの株に近縁と思われる既知種との詳細な形態学的比較検討を行う。新型コロナウイルスの影響は、当分続くことが予想されるため、サンプルの採集のための沖縄の離島への調査は行わず、すでに採集したサンプルからの分離培養を行うとともに、確立されている株の分類学的研究に集中する。加えて、黒い着色過程のモニタリングを継続し、出現シアノバクテリアの分離培養株の確立を行う。 国内・国際学会共にリモートでの開催に変更されている状況から、本研究の成果の一部はこれらの学会での発表を行うとともに、多様性研究と分類学的研究成果については論文化を目指す。加えて、遺伝的に特異であることが明らかな未記載属と思われる株については、純粋培養株を確立し、旅費として確保していた予算を用いてゲノム解析まで行う予定である。 なお、研究期間内に分類学的研究まで論文化することは難しいため、できるだけ遺伝学的な情報と分類学的な情報を整備した上で公的微生物保存機関に株の寄託を行う。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響により、第12回国際藻類学会(3月にチリで開催予定)、アジア太平洋藻類学会(北海道大学で開催予定)、日本藻類学会(東京海洋大学で開催予定)などの学会に、本研究の成果発表として本人および共同研究者(学生)が参加することを想定して旅費を組んでいたが、開催の延期やリモートでの開催になり、旅費を使用することがなかったために余剰予算が生じた。次年度も旅費での執行は困難となることが予想されるため、通常の物品費に加え、申請時に予算的に断念していたシアノバクテリア株のゲノム解析を行うことも含め、論文化の英文校閲や投稿料、保存株の寄託準備のための整備作業の謝金を含めて予算執行を行う。
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