2019 Fiscal Year Research-status Report
Evaluation of coral-killing sponge Terpios
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19K06091
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
山城 秀之 琉球大学, 熱帯生物圏研究センター, 教授 (80341676)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | テルピオス / サンゴ食海綿 / サンゴ / 成長機構 |
Outline of Annual Research Achievements |
サンゴ被覆性のテルピオス海綿の分布状況を琉球列島の広い範囲で行った。北限の奄美(喜界島)から西限の与那国まで分布しており、粟国島、水納島、下地島、来間島、古宇利島で新規に確認された。沖縄島では、今帰仁村や大宜味村で広範囲に分布しており、大宜味村では2.5kmに渡って拡がっていた。 瀬底島のテルピオス海綿の年間成長率の変化を調査した。エダコモンサンゴを覆う海綿を標識し、毎月13ヶ月追跡したところ、海水温度と極めて相関し、水温の高い夏場(8月が最大)に成長率が最も高かった。9月には大型台風が沖縄島を直撃したため、水温とは関係なく一時的な成長率の低下が確認された。 生殖時期の特定のために、瀬底島産テルピオス海綿を定期的に採取し、組織切片を作製したが不明瞭であった。一方、今帰仁や大宜味産の不定期採取の切片から、夏場に幼生が確認された、これについては2020年に特定する予定である。 テルピオス海綿の生産するケイ酸質の骨片のサイズを8箇所で比較したところ、瀬底島産が最も短く、喜界島産が長いことがわかった。このことが環境要因のどれと相関しているかを今後解明する。また、周りの懸濁粒子を捕獲することがわかっているが、そのサイズを詳細に調べたところ、直径約25umを中央値とした粘土サイズの粒子を選択的に捕捉していることが明らかとなった。共生するシアノバクテリアの密度をサンゴごと粉砕する手法で測定したところ、1平方cmあたり、1000万個を超える密度であることがわかった。 テルピオス海綿はサンゴ礁でパッチ状に分布する。そのパッチ間の海綿の接触実験を直接および間接接触で実施したところ、異なるパッチ間では0.2mmの間隙を作り癒合しないことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
テルピオス海綿の分布については、グーグルアースでサンゴの密集場所を絞って、現地調査を行うという手法で取り組んだが、粟国島、来間島、下地島、水納島などでは予想外に海綿が確認されたため。 毎月の瀬底島産テルピオス海綿の成長率調査では、予想以上に水温と相関するデータが得られ、しかも台風が海綿の成長に大きく関与することも明らかとなったため。 生殖については、夏場に幼生を放出することがわかっている(台湾からの報告)、しかし沖縄では不明であった。今回、瀬底島産では確認できなかったが、海綿にとってより好適な環境と想定される今帰仁村や大宜味村では不定期採取のサンプルから幼生が確認されたため、次年度の生の幼生確保に目処がたったため。 テルピオス海綿の動態を解析するために、重要な共生シアノバクテリアの密度、骨片の密度、粒子密度を初めて正確に計数することができたため。しかも、シアノバクテリアの密度は既知の報告よりも一桁高く、サンゴごと海綿をすり潰す手法が正確であることがわかった。骨片の長さの変化が環境要因に関係している可能性があることも、今後の解析には重要な結果となったため。 テルピオス海綿に自他認識機構が存在することを初めて発見したため、このことは海綿の分散機構の解明に今後大いに寄与することが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
テルピオス海綿の分布調査がまだ行われていない離島が数多くあり、できるだけ多くの島を調査して本種の分布状況を明らかにすると同時に、今後のアウトブレイクをモニタリングするための基礎データを蓄積していく。 2020年度はテルピオス海綿幼生の沖縄島での確認と採取を行い、有性生殖時期の範囲の特定や幼生を用いた基質選択性実験を実施する予定である。 海綿の骨片の長さが場所によって異なる可能性があるため、採取場所の環境要因の特定を行いたい。特に、ケイ酸濃度に着目し、可能であれば海水を採取してケイ酸濃度を測定する。更に飼育環境下でケイ酸の付加実験を行い、新たに形成される骨片の長さに影響を及ぼすかの実証実験を行う。シアノバクテリアが海綿の成長を促進しているはずなので、その光合成活性と光量との関係を測定し、本種の成長抑制につながる基礎データを収集し、野外で成長阻害実証実験にも取り組む。 有性生殖によって分散し、遺伝的に異なる個体間では自己非自己の認識機構があることがわかったため、海綿によって大きく覆われた場所での個体分布調査にも取り組む。
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Causes of Carryover |
当該年度は当初予定よりも研究が順調に進行し、また傭船を行わなかったため次年度使用額が生じた。また、コロナウィルス対策で出張も抑制したこともある。次年度は有効に活用する。
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