2021 Fiscal Year Research-status Report
ペットショップの特異な個体群-外来巻貝の移入リスクの評価
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19K06097
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
中井 静子 日本大学, 生物資源科学部, 助教 (40582317)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ペットショップ個体群 / 外来巻貝 / 外来無脊椎動物 / アクアリウム / 家庭の外来巻貝 / 水草 |
Outline of Annual Research Achievements |
在来河川における外来の巻貝の侵入は複数種報告されている。これらの外来種は、アクアリウムを介して運ばれたのではないかと推定されるが、詳しい研究は少ない。一方、魚の飼育を趣味とする人々にとって、巻貝が水槽内で意図せず増殖することは珍しいことではなく、このような貝は迷惑貝(スネール)と呼ばれ駆除商品も販売されている。本研究では、ペットショップの水槽に多くの外来淡水巻貝の生息が確認できるのではないかと予想し、ペットショップに混入している淡水巻貝の種組成調査、収集、外来種の侵入経路の推定を行った。 1年目は、ペットショップにおける迷惑貝について調査を行った。その結果、ペットショップでは迷惑貝の他に商品として販売される苔取り貝がいること、迷惑貝は水草を介して水槽間を移動する可能性が高いことがわかった。そこで、2年目は調査対象を苔取り貝と水草にも広げ実施した。2年目の調査では、ホームセンターの屋外園芸コーナーでも迷惑貝の侵入がみられることや、水草が貝類やその他の水槽混入生物の水槽間の移動に強く関連していることが明らかになった。3年目の本年度は、ペットショップ等の調査を継続するとともに、これまで集めた迷惑貝のDNA解析を用いた種判別や国内への移入経路の推定、家庭のアクアリウムにおける迷惑貝の調査を行うこととした。 本年度は、2年目に実施できなかった北海道、東北地方のペットショップ調査を実施し、ペットショップ調査は3年で21県となった。迷惑貝は殻の形態から13種以上をリストアップしたが、DNA解析の結果からさらに複数種含まれることがわかった。また、スペインの都市河川に侵入した外来ヌノメカワニナや、中国で採集されたアメリカモノアラガイとDNAの塩基配列が100%一致する個体が本研究から得られており、水草やアクアリウムの飼育生物の輸出入の陰で外来生物が世界中を移動していることが強く示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナ感染拡大の感染者数が昨年度より大幅に増加し、本拠地から遠方の地域における採集調査が実施できずにいる。特に、沖縄地方での調査の実施を希望しているが、沖縄地方の感染者数が急拡大したため、延期している。沖縄地方、中国地方の調査が実施できていないため、やや遅れていると判断した。 一方、昨年度実施できなかった北海道と東北地方については、本年度に調査を行うことができた。これにより、現在まで21都道府県で迷惑貝の調査を実施し、日本全国、どこへ行ってもペットショップのアクアリウムには迷惑貝がいること、その多くが外来種であることが明らかになった。ホームセンターの屋外園芸コーナーの迷惑貝調査では、関東地方や東北地方の高地や北海道など寒冷な場所の場合、見つかる迷惑貝の個体数や種数が少ない傾向がみられた。また、本年は外来巻貝の侵入経路の推定するため、アクアリウムでみつかる貝類以外の生物についても調べた。特に多く見つかった貝形虫について、詳しく調べたところ多くの外来種がみつかり、一つは新種の外来種の可能性が高いと考えられた。 現在、迷惑貝のDNA解析を実施し、外国に由来のあるサンプルが複数見つかっている。しかし、DNA解析はまだ全ての個体で実施できておらず、現段階ではペットショップ個体群の全貌の把握が行えていない。 ペットショップにおける外来巻貝、水槽混入生物、水草の水槽間の生物移動への寄与については、2021年9月の日本プランクトン学会・日本ベントス学会合同大会および2022年3月の日本生態学会で研究発表を行った。また、ペットショップのアクアリウムから発見された新種の外来種の貝形虫1種について、2021年に論文発表を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの研究結果から、外来巻貝はペットショップのアクアリウムを介して、日本全国に侵入していることが強く疑われる。未調査である沖縄地方、九州、四国、中国地方の調査地が増えると、全国的な外来種移入の傾向をより正確に把握することが可能となる。また、国内遠隔地間でも遺伝的に均質な個体が採集される可能性もあり、これまでの調査地と特に離れている沖縄地方は重要な調査地と考えている。 また、既に入手した外来巻貝のサンプルについてはDNA解析を進め、国内外の個体と塩基配列の比較を行っていく。これにより、形態による種同定が難しい淡水性巻貝の種同定をより確実に行うと共に、web上のデータベースを用い、国内で採集された個体の原産地を推定する。 水草と水草が媒介する生物についても、引き続き調査と種同定、原産地推定を行う予定である。一部の生物については、ペットショップ周辺の野外環境における生息の有無を調査し、ペットショップで見つかった外来種の由来を推定する。そして、本研究で得られた結果について、学会や論文で公表する。
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Causes of Carryover |
本研究は、日本国内にて広くサンプリングを実施する必要があるが、コロナ感染症拡大防止に関わる遠方への出張および学外調査の自粛、調査予定地の感染者数の爆発的増加により、遠方での調査が十分に実施できなかった。そのため、旅費を多く計上していたが、本年度の旅費支出が少なかった。また、感染者数拡大に伴う密を避けるための人員配置が引き続き求められ、研究時間の調整により研究室の密を避ける対策が取られた。その他、研究を開始した2019年より保育園の長期休園が5回にわたり実施され、未就学児を養育する状況にある研究代表者の研究時間が十分確保できなかった。そのため、計画していたDNA実験が進まず、試薬等の消耗品の支出も少なかった。 次年度は実施できていない遠方の調査を行う予定であるため、旅費の支出が生じる。また、DNA解析用の消耗品の支出を予定している。
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