2020 Fiscal Year Research-status Report
鎌倉末期から室町初期における日本庭園の利用に関する再考-京の上流階級を中心に
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19K06118
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Research Institution | Minami Kyusyu University |
Principal Investigator |
関西 剛康 南九州大学, 環境園芸学部, 教授 (80461656)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 庭園 / 日本庭園 / 庭園史 / 日本中世史 / 庭園利用 / 禅宗庭園 / 上流階級 / 室町時代 |
Outline of Annual Research Achievements |
14世紀中葉の室町初期は、南北朝争乱によって伝統文化の継承者であった天皇や公家の権力者としての社会的地位が下がり、逆に足利将軍家による室町幕府体制によって武士の地位確立から武士の独自文化が栄えていった。このような政治的変動や室町文化の発展のなかで、公家・武家・禅僧の3者による庭園を舞台とした文化交流(サロン化)が展開されていった歴史上初めての時代でもあった。そこで本研究は、1)鎌倉末期(14世紀中葉)から室町初期(15世紀中葉)における庭園の文化利用の再考と、2)室町時代前期の庭園史と他の芸術文化史との総合的見解の深化について、明らかにすることを目的としている。 令和2(2020)年度の調査研究は、前年(2019)度に文献調査した史料に加えて、さらに室町初期の将軍家である足利尊氏とその弟の直義の視点から、天皇家(光厳上皇・光明天皇・関連公家など)や臨済宗の禅僧(夢窓疎石・虎関師錬・雪村友梅など)との庭園利用に関する関連性について実施した。そのために文献史料(『師守記』『海蔵和尚紀年録』『門葉記』『夢窓国師語録』『法覚真空禅師録』『梅松論』『山城名勝志』『武家年代記』『済北集』『雨森善四郎所蔵文書』『御的日記』『島津文書』『四明竺僊和尚偈頌』『新千載集』『官務記』『賢俊僧正日記』『莵玖波集』『園太暦』『賢俊僧正日記』など)の追加調査を実施した。 令和2(2020)年度の成果は、足利尊氏とその弟直義が、天皇家や禅僧らとの庭園における交流に関して研究論文として纏めた。それらは、日本造園学会1件(『足利尊氏と足利直義における庭園利用に関する研究』ランドスケープ研究84(5)、453-458)と、日本造園学会九州支部2件(『足利尊氏における京の初期邸宅の庭園に関する研究』研究・事例報告集Vol.28、29-30、『足利直義にみる公武禅の庭園利用に関する研究』研究・事例報告集Vol.28、71-72)である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
公家・武家・禅僧の3者による庭園利用について、武家の邸宅や別業における庭園の観点からみると、3代将軍の義満が、室町殿(花の御所または花亭)や北山殿(のちの鹿苑寺金閣)の庭園を舞台に、3者による庭園利用を活発に先導して行く観点は研究されていたが、義満以前の先代にあたる尊氏とその弟の直義が、どのように鎌倉から入洛した後に、どのような庭園を自邸に造営して利用し、それがどう他の庭園の利用と関係し、どう受容していったかについての全体像は余り論じられていなかった。 しかし、令和2(2020)年度の本研究により以下のことが判明した。それは、尊氏と直義の自邸の庭園利用においては、合戦や政治情勢が不安定であるなかで、公家や禅僧と共に、偈頌や詩歌会などによる交流をもってはいたが,3者による活発な庭園利用は,まだ発展途上であった。しかし、尊氏と直義が,同時期に他の天龍寺・西芳寺・醍醐寺ならびに常在光院などの庭園に赴き、そこでの公家や禅僧らとのサロン的交流を通じて、庭園を舞台とする王朝や禅宗の文化を受容した内容が判明した。 そして、この室町初期に、尊氏と直義が、自邸や他邸の庭園で少しずつ連歌や和歌の歌会や庭園観賞や花見などを通じて、公家・禅僧とのサロン的交流を深めていったことが、のちの義満による花の御所や北山山荘の運営に継承されて行くと考察できた。本研究は、室町日本庭園史を一歩進めた成果であったと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、1)鎌倉末期(14世紀中葉)から室町初期(15世紀中葉)における庭園の文化利用の再考と、2)室町時代前期の庭園史と他の芸術文化史との総合的見解の深化について、明らかにすることを目的としている。 3箇年計画の最終年度となる令和3(2021)年度は、令和2(2021)年度における研究をさらに継続発展させて、足利将軍2代の義詮以降を視点にして、公家・武家・禅僧の3者による庭園利用について、文献調査を中心に実施する予定である。 そして、鎌倉末期から室町初期における公家・武家・禅僧の3者による庭園利用について総括的考察を進める予定である。
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