2021 Fiscal Year Research-status Report
低温下の光ストレスに対する葉齢に依存した葉の生理的能力と常緑性・落葉性との関連
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19K06139
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
小野 清美 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (50344502)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 展葉・落葉 / 常緑広葉樹 / シンク・ソース / 光ストレス |
Outline of Annual Research Achievements |
アラカシ苗木を昼温22℃(夜温18℃)と昼温10℃(夜温8℃)の2つの温度条件(日長12時間)で生育させたところ、昼温10℃ではアラカシ苗木の展葉・落葉が遅れた。また、アラカシ苗木を北大低温研(北海道札幌市)で、11月10日からガラス室(温度制御なし)で栽培したところ、1年葉の光合成能力(葉温20℃前後で測定)はすでに低下し、光化学系IIの最大量子収率(Fv/Fm、室温20℃前後で測定)が0.5-0.7程度であったが、最低気温が0℃前後になる時期にさらに低下した。当年葉の光合成能力には12月上旬までは低下があまり見られなかった。最高気温が0℃を下回った12月下旬から1月上旬にかけて当年葉のFv/Fmは低下した。実験に用いることができた個体数が少なかったために明確に結論付けることはできないが、光合成能力の低い1年葉の方が、気温の低下に伴うFv/Fmの低下が早く、また大きいという傾向がみられた。ポット栽培の影響のためか、1月上旬にはポットの土壌凍結が起こり、この時期のFv/Fmは0-0.2程度になり、葉は乾燥状態になり枯死した。 昼温10℃、日長一定条件では、展葉(シンクの成長)が抑えられることによって、すでについている葉が長く保たれたと考えられる。一方、温度制御をかけていないガラス室の場合には、気温が大きく低下し、Fv/Fmの低下が見られ、最終的には土壌凍結の影響もうけて、葉は枯死した。生育温度が葉の寿命に与える影響を考えるときに、シンク・ソース関係による資源利用と低温による光ストレスの両方が影響を与えることを考慮に入れる必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コナラ属の常緑広葉樹アラカシに関して、気温が低下するときに見られる光ストレスの程度が葉齢によって異なる可能性が示されたことから、研究開始時に明らかにしたいことの一つの解明の道筋が見えてきた。しかし、個体数や葉枚数が少数しか確保できなかったため、きちんと結論付けることができていない。 光合成活性(二酸化炭素吸収)や光化学系IIの最大量子収率は測定したが、クロロフィルやカロチノイドといった色素はまだ測定できていない。 一方、比較的マイルドな低温条件では、新しい葉の展開が抑えられることにより、古い葉の老化さらに落葉が抑えられ、気温が比較的高い条件よりも、葉寿命が長くなることが昨年度に続いて確認できた。 マイルドな低温条件と急激な気温の低下とで低温が葉寿命に与える影響が異なること、葉齢による違いが見られそうなことが分かったのは進展であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
まだ測定していないサンプルのクロロフィルやカロチノイドといった光合成系の色素量の測定を行い、光ストレス応答との関連を調べる。 アラカシの種子が入手でき、実生を栽培することができるようになったので、ミズナラあるいはコナラの種子から実生を栽培し、常緑広葉樹と落葉広葉樹の実生を環境制御下で栽培する。低温処理を10℃(マイルドな低温条件)あるいは0℃付近(厳しい低温条件)で行い、常緑広葉樹と落葉広葉樹で、光化学系IIの最大量子収率や色素や光合成系のタンパク質量の変化に違いが見られるのか、落葉するのかなどを調べる。
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Causes of Carryover |
すでにあるもので実験を進めたこと、および色素分析が進まなかったことのため、物品費をあまり使用しなかった。学会がオンライン開催になったため、旅費を使用しなかった。色素分析やタンパク質実験に物品費を使用する。
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