2020 Fiscal Year Research-status Report
“樹液酵母”とは何か ―好樹液性昆虫との共生関係の解明―
Project/Area Number |
19K06160
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
遠藤 力也 国立研究開発法人理化学研究所, バイオリソース研究センター, 研究員 (90634494)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 酵母生態 / 微生物資源 / 樹液 / フルクトース |
Outline of Annual Research Achievements |
初夏~秋に、コナラやクヌギの樹幹に樹液が滲出している様子はよく観察される。樹液から様々な酵母が分離されることは半世紀以上前から海外で報告されているが、樹液中の酵母(樹液酵母)の存在量について定量的なデータが乏しく、国内で詳細に解析した研究も無い。我が国の森林における「樹液酵母」とは何か解明するため、2019年度には樹液から菌類を分離し菌種の特定と存在量の定量を行った。2020年度は2019年度の結果の再現性を確認する予定だったが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を大きく受け、特に5-6月の樹液滲出の野外調査・サンプリングが実施できず、進捗が滞ることとなった。社会情勢を踏まえて、樹液酵母を含む多様な酵母種について、研究室内で実施可能な生理学的性状試験を実施することとした。 本研究でターゲットとする樹液は樹木の篩管液を含む滲出物と考えられ、スクロース(ショ糖)を含む可能性がある。スクロースはグルコース単位とフルクトース単位から成る二糖類であることから、酵母によるこれら3種の糖類の利用可能性について検討した。その結果、供試した子嚢菌酵母388株の全株でフルクトースの資化能力がある(単一の炭素源として利用可能)こと、300株以上でフルクトースの発酵能力があることがわかった(Endoh et al. 2021)。代表的な樹液酵母についても強いフルクトース発酵能力やスクロース発酵能力が観察され、野外の樹液滲出の現場でこれらの能力が発揮されている可能性がある。また、キクイムシとの共生関係が疑われる子嚢菌酵母Ambrosiozyma platypodis とCyberlindnera americana は、フルクトースを嗜好して発酵能力を発揮することもわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染症(Covid-19)の拡大に伴って、2020年度4月~8月にかけて所属機関から在宅勤務命令と出勤制限を受けた。それゆえ、ラボでの現場勤務時間が喪失(平日3~4か月分に相当)し、通常業務が逼迫したことで本課題遂行に充分な研究時間を確保できなかった。 加えて、Covid-19拡大抑止の観点から、県をまたいだ移動の自粛を余儀なくされ、2020年度中のサンプリングおよび現地調査の機会が喪失した。 以上の窮状から、本課題の進捗状況は当初計画より遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
本課題の遂行には、樹液の野外調査・採集活動が必須である。Covid-19の感染が拡大している地域への往来を避けつつ、感染対策を徹底したうえで、単独行動にて野外調査・採集を実施する。季節性を考慮した2020年度分の野外調査を遂行できなかったため、課題実施期間の延長も検討している。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症(Covid-19)の拡大に伴って、2020年度4月~8月にかけて所属機関から在宅勤務命令と出勤制限を受けた。それゆえ、ラボでの現場勤務時間が喪失(平日3~4か月分に相当)し、通常業務が逼迫したことで本課題遂行に充分な研究時間を確保できなかった。加えて、Covid-19拡大抑止の観点から、県をまたいだ移動の自粛を余儀なくされ、2020年度中のサンプリングおよび現地調査の機会が喪失した。また、エントリーを予定していた国際学会・国内学会が中止となり、計上していた参加・出張費用が不要となってしまった。 以上の窮状から、とりわけ野外調査と学会参加にかかる諸費用分で次年度使用額が生じている。2021年度は多少の野外調査が可能な見込みであることから、かかる経費を執行する予定である。学会参加については多くがオンライン開催となり、経費が浮くと想定される。当初は予定していなかったゲノム情報の取得など、研究計画の変更によって研究費をより有効に活用し、研究を進めていく。
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Remarks |
上記は発表論文Endoh et al. (2021) Microorganisms 9(4), 758 のプレス発表記事。
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Research Products
(3 results)