2019 Fiscal Year Research-status Report
河口域二枚貝の生産力を支える付着珪藻と浮遊珪藻の基礎生産構造特性
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19K06183
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
伊藤 絹子 東北大学, 農学研究科, 准教授 (90191931)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 河口域 / 二枚貝 / 浮遊珪藻 / 付着珪藻 / 基礎生産 / 物理環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題では珪藻類を単に二枚貝類の餌としてみるのではなく、生態系の重要構成員として位置づけ、両者の結びつき方を糸口にして、二枚貝の生産が維持されているしくみを明らかにすることを目的としている。宮城県名取川河口域の優占二枚貝のアサリ、ヤマトシジミ、イソシジミの生産機構を解明するため、食物環境である底層水の水を採集して、微細藻類組成を調べ, 炭素・窒素安定同位体比の解析より、有機物の由来判別を実施した。二枚貝についても炭素・窒素安定同位体比を分析し、利用している食物源を推定した。 二枚貝の胃内容物には多種多様な珪藻類が存在していること、とくに付着珪藻類はサイズ的にも種類数においても多様度が高いことがわかった。二枚貝は懸濁物食者であるが、それぞれ食物源は異なり、ニッチが重ならないことがわかった。このことがそれぞれの生産力を支えているメカニズムであると考えられた。 食物である珪藻類がどのように存在しているのか、存在様式と物理環境との関係の解明のためには、二枚貝と珪藻の生活域の接点の形成機構を知る必要がある。そこで、二枚貝の周辺1cmレベルの環境水を採取する方法、道具を考案(手動式減圧ポンプと細いチューブ・塩ビパイプを組み合わせた陰圧吸引法)、これを用いて二枚貝のごく近傍の水を採取した。河口二枚貝周辺の水は潮汐により大きく変化しているので、この変化過程を明らかにするため、潮汐に対応した採水も行なった。 水の有機物の大半は陸上からの有機物であるデトライタスであった。珪藻類の割合は予想より低い存在比率であった。しかし、デトライタスは二枚貝の中でもヤマトシジミの炭素源として非常に重要であるものの、イソシジミ、アサリにとっての寄与は低かった。また、珪藻類のなかでも流下珪藻も重要であり、特に窒素源として重要であった。また、河川水は栄養塩の供給として、極めて重要であることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
河口域の二枚貝の食物として珪藻類(浮遊珪藻と付着珪藻)を主に考えていたが、陸上植物由来のデトライタスが炭素源としては極めて重要になる場合があることを見出した。 一方、窒素源としては、珪藻類の寄与が大きく、河口域に生育する種類だけではなく、上流域で生産され流下して供給される付着珪藻類も寄与している可能性がでてきた。二枚貝の食物環境を詳しく解析するために開発した装置はシンプルであり、非常に性能がよく、予想以上の成果を上げることができている。 潮汐により著しく変化する河口の環境をとらえるため、満潮時から干潮時までの連続採水を行ったが、天候、とくに降水量、河川流量の影響が大きく、有機物の組成が観測日により変化してしまい、「平時の環境」を捉えることが難しいこともわかった。河川水量が大きい場合、小さい場合というような条件設定を加えた解析が必要である。河川水量による物理環境の変化パターンについては、実測だけでなく、水理モデルを適用するなどの工夫が必要であり、次年度に検討する。 研究対象域に優占して生息する二枚貝、アサリ、ヤマトシジミ、イソシジミは濾過食者であり、懸濁物食者であるので、河川水中の有機物を無選択に摂取していると予測されているが、炭素・窒素安定同位体解析からは、栄養源が異なること、さらに、同種でも生息環境により、とり入れている食物の割合が大きく異なることも明らかになった。生態学的にも重要な知見であり、このメカニズムについても注視する必要がでてきた。 珪藻類の培養については、現時点で11種類の純培養ができており、二枚貝の飼育については長期間の飼育が可能になり、概ね順調に進めることができている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で想定していた珪藻(浮遊珪藻と付着珪藻)は河口域に分布している種類であり、河川上流域で生産されて流下する珪藻類については研究対象には含まれていなかった。この珪藻類についても考慮する必要が出て来たので、採集方法を検討してゆく。さらに、河川水中の陸上植物由来有機物の食物としての貢献がわかったので、これらに関する解析を加えるとともに、どのようにして、二枚貝の栄養源として機能するのか、新規の飼育実験を計画する。飼育実験には、アサリ、ヤマトシジミ、イソシジミを用いて、食物としては生態的特性が異なる珪藻、浮遊珪藻類ではSkeletonema sp,とThalasiossila sp.,付着珪藻としてEntomoneis alata, Aulacoceria sp.をえらび、これらを食物とした場合の摂食行動、成長について解析する。また、デトライタス(河川に堆積している落ち葉など)を食物として与えたときの成長の比較実験を行う。炭素源としてのみ、機能しているのかどうか確認するための分析を行う。 一方、浮遊珪藻類と付着珪藻類では、生理生態的な特性が大きく異なると予測しているので、今年度は前述の四種類の珪藻(付着珪藻二種、浮遊珪藻二種)について培養実験を行い、大量の珪藻を作り、有機物の含有量、脂肪酸の組成やアミノ酸組成についての解析も進める。 珪藻の生理生態的な特性が二枚貝の生産機構において、どのように結びついているのか、具体的に提示できるように、研究手法の検討も含めて本研究を進める。 加えて、珪藻の生育条件は物理的な環境条件により大きく左右されることが明らかになったので、河川水量による物理環境の変化パターンについては、水理モデルによる解析手法を新たに取り入れたいと考えている。
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