2020 Fiscal Year Research-status Report
海産底生珪藻の珪酸摂取能ならびに珪酸被殻の溶解特性の解明
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19K06185
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
山口 一岩 香川大学, 農学部, 准教授 (50464368)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 海産底生珪藻 / 珪酸 / 珪藻殻 |
Outline of Annual Research Achievements |
2つの小課題から,各々次の知見を得た。 ・底生珪藻の溶存珪酸摂取能の浮遊珪藻との比較解明 本年度は底生珪藻Achnanthes kuwaitensisを主対象に,増殖速度に対する溶存珪酸(DSi)濃度の影響を調べた。同種は強付着性種であり,既に概ね確立されている浮遊珪藻のための栄養塩摂取実験法を流用できない。そこでまず既往の知見を参考にして,2つの異なる実験法を考案した。この方法をA. kuwaitensisに適用したところ,同種の増殖に対するDSiの半飽和定数は,二方法共に約1.1 μMと試算された(速報値)。この値は,前年度に得た緩付着種Entomoneis sp.や,今年度得た浮遊珪藻Thalassiosira weissflogii,また,既往の海産浮遊珪藻の値に類するものであった。以上より,底生珪藻の増殖速度に対するDSiの半飽和定数は,当初の予想より低い可能性が示された。 ・底生珪藻殻の溶解特性の浮遊珪藻との比較解明 前年度に続いて珪藻殻溶解実験を行い,現時点迄に8種(底生4種,半底生半浮遊1種,浮遊3種)の結果を得た。各珪藻殻を濾過海水に懸濁させて約1ヶ月培養し,殻の溶解残存率と時間の関係を調べた。両者の間には傾きの異なる2つの指数関数曲線(傾きK1, K2)で近似的に表される関係があり,殻の溶解は始め速やか(K1)後に緩やか(K2)に進み,各種の殻を易溶解性と難溶解性画分に分割できた。底生珪藻4種の殻の溶解初期における曲線の傾き(K1)は,浮遊珪藻3種より緩やかであった。また,K1に従って溶解する殻の易溶解性画分の割合は,概して底生珪藻で低かった。従って,「殻の易溶解性画分の溶解耐性が比較的高い」ため,底生珪藻殻は浮遊珪藻殻に比して概して溶けにくいことが示唆された。また電子顕微鏡観察により,各殻の易・難溶解性画分の違いには殻の部位の違いが関わっていることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
それぞれの小課題について今年度も新たな知見を得ることができたため,本申請課題は概ね順調に進行していると判断した。 ・底生珪藻の溶存珪酸摂取能については,既往の研究において実験方法論的に課題を残していた強付着種を対象とする検討に取り組み,結果を得ることができた。ただし当初の予想とは異なり,得られたDSiの半飽和定数は既往の浮遊珪藻の値に準じる水準であった。今後,種数を増やしての更なる検討が必要な状況である。 ・珪藻殻の溶解性については,8種の検討結果より,底生珪藻殻の溶解速度が沿岸で卓越する一般的な浮遊性種(Chaetoceros, Skeletonema, Thalassiosira等に属する種)と比して,概して溶解速度が遅い可能性が示された。この傾向の確認のため更に検討を加える予定だが,K1の違いが溶解性の違いに大きく関与している等,珪藻殻の溶解に関する知見が順調に集積しつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
本申請課題の大きな目的は,Si収支の違いを通じて“底生珪藻とは海底生活を送る浮遊珪藻である”との既成概念を革新することである。小課題「底生珪藻殻の溶解特性の浮遊珪藻との比較解明」においては,その目的達成に向けた知見が得られつつある。従って,最終年度は,現在得られている知見の妥当性を検討・補完することを目的として,種数を増やしての追加実験を実施する予定である。また,現在までに「易溶解性画分の溶解耐性の違い」に起因して,底生珪藻と浮遊珪藻の珪藻殻に溶解性の系統差がある可能性が示されている。そこで,「易溶解性画分の溶解耐性の違い」を生む原因究明に焦点を充てて,電子顕微鏡による珪藻殻の微細構造の観察や,珪酸の構造解析に取り組みたいと考えている。一方,小課題「底生珪藻の溶存珪酸摂取能の浮遊珪藻との比較解明」においては,底生,浮遊珪藻の系統差を明かすうえでより多種の情報を得ることが必要不可欠であり,最終年度はこの点を念頭において実験を進める予定である。 今年度は諸事情により学会等での成果公表を控えたため,最終年度は特に積極的に情報を発信していく必要性を感じている。
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Causes of Carryover |
(理由)本申請課題に関する研究は,これまでのところ海外の研究者が牽引して進めている分野である。そのため,国外で開催される学会で発表を行い,その場で直に類似の研究を進めている海外の研究者と議論することが重要であると考え,このための旅費を計上していた。しかし,参加候補としていた国際学会が軒並みオンライン開催に変更,あるいは順延となった。そのため,海外旅費相当額の使用を控えた結果,次年度使用額が生じることとなった。 (使用計画)令和3年度の状況によるが,可能であれば本年度繰越額を実地開催される国際学会参加のための旅費に充てたいと考えている。また,当初の想定以上に小課題「底生珪藻の溶存珪酸摂取能の浮遊珪藻との比較解明」に関わる消耗品費の支出が多く,また,令和3年度に進めるべき事項も多いので,そのための物品費を補うものとして支出する計画である。
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