2020 Fiscal Year Research-status Report
集団ゲノミクスで探るカレイ科姉妹種の集団構造と対照的な卵形質の遺伝的基盤
Project/Area Number |
19K06202
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
池田 実 東北大学, 農学研究科, 教授 (70232204)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | マコガレイ / マガレイ / 粘着沈性卵 / 分離浮性卵 / 集団構造 / ミトコンドリアDNA / 集団ゲノミクス / 次世代シーケンサー |
Outline of Annual Research Achievements |
マコガレイとマガレイは同属でありながら、前者は粘着沈性卵、後者は分離浮性卵を産出するという対照的な初期生活史を持つ。2種の遺伝的集団構造に関して予測されるのは、卵および仔稚魚期における分散程度の低いマコガレイでは大きな遺伝的分化を示し、分散程度の高いマガレイでは低い遺伝的分化を示すということである。この予測について検討するため、昨年度はmtDNAの一部配列(1878塩基)をマーカーとした日本列島沿岸の両種の集団遺伝学的解析により、マコガレイでは15.8%(P<0.001)もの標本集団間の分化が認められたが、 マガレイではわずか0.04%(P=0.40)でほぼ均質となった。マコガレイについてSAMOVAおよびBARRIER分析を行った結果、7グループ(日本海北部、日本海南部、 東北太平洋、関東、中部、瀬戸内海、九州)に分かれ、近接したグループ間でも強固な遺伝子流動の障壁が検出された。各グループは特徴的なハプロタイプから 構成されており、同じグループ内であっても標本集団間に有意な遺伝的分化が生じている場合があった。以上の結果から、2種の初期生活史の差異は集団構造に反映されており、予測と合致した。また、対象としたmtDNAの一部遺伝子(CytbやND2)について他魚種での進化速度を外挿して、マコガレイ集団での進化的人口動態を検討したところ、最終氷期以降の日本列島沿岸の地形の成立過程と密接に関連していることが示唆された。 今年度は、両種の遺伝的集団構造について、次世代シーケンサーを用いたSNPs解析により検討を行うことを目的とした。しかしながら、ライブラリーの調整に先立って、DNA試料の質的・量的チェックを行ったところ、多くのサンプルで劣化に起因すると考えられるゲノムDNAの断片化が生じており、解析に十分な数のSNPsを取得することは困難と考えられた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
対象としたDNA試料の多くは劣化しており、前年度のミトコンドリアDNAの増幅には問題はなかったものの、大量のSNPsデータを取得するのは困難と判断された。この要因としては、DNAの抽出から時間が経過していたこと、さらに多くの試料が2011年3月11日の大津波による水没を経験していたことが挙げられる。このことが判明して以降、各地の水産試験場をはじめとする沿岸漁業関係者に連絡を取り、魚体の再収集を試みたが、新型コロナウィルスの影響により入手することが叶わなかったということが進捗の遅れに関する主な理由である。
|
Strategy for Future Research Activity |
各地の沿岸漁業関係者と連絡を取り、あらためて生鮮な魚体の収集を速やかに進める。初年度にミトコンドリアDNAを分析・解析した試料とは世代が異なるため、新たに収集した試料についても同様の分析・解析を行い、世代間のハプロタイプ頻度の差異の有無についても検討を行なった上でSNPsの解析に供する。
|
Causes of Carryover |
今年度の使用額は、マコガレイあるいはマガレイどちらか1種について大量のSNPs取得のための次世代シーケンサーによる受託解析費用が主であった。しかし、多くの試料が劣化に起因する断片化により、大量のSNPsの取得が困難であることが判明し、解析委託を行わなかった。そのため、次年度は新たに試料を収集し、マガレイとマコガレイの両種について解析の委託を行うため次年度使用額が生じた次第である。
|