2020 Fiscal Year Research-status Report
個体の生活史から群集動態まで:体サイズを軸とする水圏生態系モデルの新たな体系化
Project/Area Number |
19K06203
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山川 卓 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (10345184)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
黒木 真理 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (00568800)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 水圏生態系 / 体サイズ / ベキ乗則 / サイズスケーリング / サイズスペクトル / 成長 / 再生産 / 生物群集 |
Outline of Annual Research Achievements |
水圏生態系では「小さな個体を大きな個体が喰う」ことの連鎖によって食物網が構成され,その経路に沿って物質・エネルギーのフローが生じる。水圏生態系を構成する個体の体質量の変異幅は非常に大きく,脊椎動物内でも異なる種間では10^11倍,同一種内でも仔魚と成魚では10^9倍の違いにも及ぶことが珍しくない。このような体サイズの大きな違いに伴って,個体間のさまざまな生理的・生態的変異が生じる。よって体サイズは,水圏生態系を貫く最も基本的で変異の大きな座標軸であり,構成個体の栄養段階をおおよそ表す指標でもある。 一般に,生物の代謝速度yは体サイズxのベキ乗式y=a*x^bで表される(Kleiber, 1932)。水圏生物群集の構成個体の体サイズと個体数・バイオマスの関係(サイズスペクトル)や,捕食者-被食者の体サイズ比は簡単なベキ乗式で表され,これらは,「サイズスケーリング則」や「ベキ乗則」と呼ばれる。 以上のことを背景に本研究では,サイズスケーリング則に従って個体レベルから個体群レベル,群集・生態系レベルまでの各過程を一貫してモデル化する新たな体系を提示するとともに,実際のデータに適用してその有効性を検証することを試みた。 水産資源の動態モデルは,von Bertalanffy (1938) やBeverton and Holt (1957) 以来,細部では様々な変更が加えられ進歩してきたが,基本部分は半世紀以上に亘ってそのまま維持されてきた。本研究は,体サイズの視点から水産資源-生態系の動態理論に根本的な変革を加えて新たな体系化を図ろうとする試みである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1) 個体レベルの生物現象(成長,繁殖,生活史特性)に関して,研究代表者らが既に提案(Manabe et al.,2018)した,成長と繁殖へのエネルギー配分を考慮した,サイズスケーリング則に基づく新たな個体成長式(一般化q-VBGF)を,本研究で収集した数種の水圏生物のデータにあてはめて,モデルの妥当性の検証を行った。 (2) 個体群レベル(生残過程,資源動態)に関して,ふ化から加入,成熟,寿命までの生残過程を,資源変動のカギを握る初期生残過程も含めて,体サイズスケーリング則に従う死亡率によって統一的に表す個体群動態モデルの候補を導出した。さらに,ベキ乗式を基本として親と子の量的関係を表す再生産関係式(q-logarithm型再生産式)を新たに導出し,既往データベースにおける親魚量-加入量の時系列データに当てはめてメタ解析を行い,従来型モデル(Beverton-Holt型,Ricker型,Hockey-stick型,Deriso-Schnute型など)との性能比較を行った。本件については現在,学術雑誌に論文投稿中である。 (3) 群集・生態系レベル(系のマクロ動態)に関して,研究代表者らが既に導出・提示(Xia and Yamakawa, 2018)した,海洋生態系における生物群集のサイズスペクトルの動態をシミュレートするサイズ構成行列モデルについて,構成種別の成長,成熟,餌選択性などの情報も入れて同時に解析できるようにモデルの拡張を行い,その動態を精査した。本件については現在,学術雑誌に論文投稿中である。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) 個体レベルの生物現象(成長,繁殖,生活史特性)に関して,既往文献,報告書のさらなるレビューや,フィールドにおける新たな標本採集を通じて,利用可能なサンプルデータ件数を増やし,一般化q-VBGF式の妥当性の検証を継続する。また,一般化q-VBGF式によって推定されたパラメータ値の種間比較を通じて,成熟のタイミング(早熟vs.晩熟)や成熟後の繁殖へのエネルギー投資率と成長(限定成長・非限定成長)等の関係から,種別の生活史戦略を統一的に考察する。 (2) 個体群レベル(生残過程,資源動態)に関して,既往文献や報告書のレビューによって,魚類の初期減耗,加入後の自然死亡に関する評価事例を収集する。そして,これらのデータを上述の個体群生残モデルにあてはめて,その妥当性を検証する。また,より多くの資源・系群に関する親魚量-加入量データを用いたメタ解析を行うことにより,ベキ乗式に基づく再生産関係式(q-logarithm型再生産式)の妥当性の検証をさらに進める。 (3) 群集・生態系レベル(系のマクロ動態)に関して,海洋生態系における生物群集のサイズスペクトルの動態をシミュレートするサイズ・種構成行列モデルについて,実際のデータをもとにした構成種別の成長,成熟,餌選択性などの情報を入れて解析することにより,その動態をさらに精査する。そして,当群集動態モデルを用いて数通りの漁獲戦略シナリオのシミュレーションを行い,対象資源や生態系に与える各漁獲戦略の影響と,望ましい漁獲のあり方を検討する。 (4) 以上の研究成果について,順次,論文化を進めて公表する。
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