2019 Fiscal Year Research-status Report
A study towards zero-emission of fishery wastes: verification of the degree of advancement of Japanese food system
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19K06213
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Research Institution | Daito Bunka University |
Principal Investigator |
山下 東子 大東文化大学, 経済学部, 教授 (50275822)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
天野 通子 農林水産省農林水産政策研究所, その他部局等, 研究員 (40643250)
除本 理史 大阪市立大学, 大学院経営学研究科, 教授 (60317906)
山尾 政博 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 名誉教授 (70201829)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 魚あら / カキ殻 / ブリ / マグロ / 卸売市場 / 除染廃棄物 / エコラベル / 食品ロス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究初年度である2019年度の研究計画は、交付申請書記載の研究実施計画によると、①文献調査を行う。自然科学系文献については注意深く水産加工残滓の減量化技術と有用物抽出動向について知識を共有する。②全国レベルでの水産加工残滓の質・量とその処理実態、コスト構造を把握する、であった。 ①については各自の担当分野を決めて取り組んだ。2020年度にこの成果を持ち寄り、新たに予定する研究協力者からのインプットを加えて知識を共有する。②については研究会に招いた伊澤あらた氏より包括的な説明を受けた後、水産加工残滓処理を行っている5地域10か所の工場や研究機関を訪問した。それらは、静岡県冷凍マグロ加工残滓処理場(フォローアップ)(山下)、鹿児島県養殖ブリ加工残滓処理場(天野・山尾)、埼玉県卸売市場・飲食店の雑あら回収(伊澤)、広島県カキ殻処理(山尾・天野)、福島県除染廃棄物の再生利用(除本)である。 これらの調査結果から得た知見は以下の5点である。第1に魚あらと貝殻では残滓の質・量・使途が違っているため、今後は視点を分けて捉えていく必要があることを確認した。第2にカキむき身作業の人手が不足している地域では殻付きカキが出荷され、カキ殻処理が川下に先送りされている。第3に養殖ブリについては、養殖であることで残滓の安全性が高く、食用にも向けられている。加工場で残滓処理にかける手間と残滓の高度利用の間にフードシステム上のトレードオフの関係がある。第4に川下での雑多な残滓からも、産地加工場から排出される同質で新鮮な残滓と類似の製品群が生産されている。第5に残滓から作られる製品のトレーサビリティやエコラベリングが求められるようになる可能性があり、当研究においてもそれを視野に含めるべきであることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の研究はおおむね順調に推移した。初年度は文献研究を主とする計画であったことから旅費に使える金額は十分にはなかったが、各自他の調査研究や業務と組み合わせて5か所の事例収集を行うことができた。研究成果も2本発表できた。 研究を進める途上で新たな課題も見えてきた。第1に事例研究をどこまで続けるべきかという点である。交付申請時の研究実施計画には、事例研究は行うがそれの取りまとめを目的とするのではなく、環境と付加価値の創出の間のバランスを検討することにあると述べている。しかし初年度の5地域調査を通して様々な共通点と相違点が見えてきたため、2年目以降もサケ加工残滓、ホタテ殻、広島県以外でのカキ殻へと事例研究をさらに蓄積したい意向が生じている。 そこで、第2に、事例調査を続ける際には調査視点を再確認することが課題である。本研究の目的として経済性と先進性の検証がある。初年度の事例研究では経済性について具体的な数値まで得ることができなかった。先進性についても、2年目以降の海外事例との対比を待たねばならないが、それとともに、加工残滓から作る製品群の変化が何によってもたらされているのか、需要先(餌飼料が中心)の要請に応じて変化させているのか(=経済性)、より高い付加価値をもたらす研究開発の成果を取り込んでいるのか(=先進性)を確認しつつ事例研究を進めていきたい。 第3は食品ロスの削減という、近年注目されている政策課題にも配慮する必要性である。加工残滓と食品ロスは排出段階が異なるが、ゼロエミッションを目指すという共通の課題を有しており、フードシステムをとらえる際に看過できない。第4は1.で述べたエコラベリングである。2年目以降はこれら研究途上で見えてきた新たな課題を包摂しつつ研究を進めていく。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究申請書(2018年10月作成)に記載した2年目の研究は海外文献調査を踏まえた海外の先進事例調査であり、3年目は研究成果発表を主とすることとしていた。しかし現下の世界情勢のもとで、本報告書執筆時点では海外調査はおろか、図書館サービス停止のため海外文献の取得もままならなくなっている。そこで研究計画を当初より若干変更し、海外文献調査を2年目の後半に、海外事例調査を2年目の年度末から3年目の前半に行うこととする。 2年目の前半は各自初年度の事例研究の取りまとめを行うとともに、国内事例研究は可能となれば順次実施していく。養殖ブリ産地(愛媛・大分・鹿児島県)と広島県のカキ殻調査を継続するとともに、岩手県のカキ殻とサケ加工残滓調査を予定し、準備を進めている(山尾・天野)。除染廃棄物の再生利用についても福島県で引き続き調査を実施する(除本)。ホタテ殻調査先の選定を行う(山下)。研究会は遠隔・オンラインで開催する。 2年目は先述の伊澤あらた氏に加え、谷田貝浩三氏に研究協力者となっていただく。伊澤氏は自身の業務に関連するベトナムのマグロ加工場における加工残滓処理について調査し、成果は研究会で報告していただく。谷田貝氏は山下との共同研究として、学生を対象に魚介類の調理・摂取・効能・食品ロスについてのアンケート調査を行い、成果は加工残滓から抽出する有用成分の研究動向とともに研究会で報告していただく。 最終年度にあたる3年目は、前半までに海外事例調査を終え、とりまとめた研究成果を発表する。日本の水産加工残滓の排出の特徴は多品種少量であることにある。加えて、人手不足のため加工部門の海外移転が進んでおり、国内残滓市場の縮小にも直面している。そこで海外移出先を含めた水産加工残滓のフードシステムについて、年度後半に開催される学会のシンポジウムまたはミニ・シンポジウムにおいて発表する。
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Causes of Carryover |
調査地選定において、他の研究と同時に行うなどして、研究旅費を節約的に使用したため。2020年度以降に使用する。
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Remarks |
Research Blog欄に「魚あら科研のページ」を設置し、適宜情報を更新している
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Research Products
(3 results)