2019 Fiscal Year Research-status Report
アワビはいつどこで産卵するのか?:大気中の過酸化水素が産卵に及ぼす影響
Project/Area Number |
19K06217
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Research Institution | Fisheries Research and Education Agency |
Principal Investigator |
松本 有記雄 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 東北区水産研究所, 研究員 (60700408)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | エゾアワビ / 産卵生態 / 超音波テレメトリー / ドローン |
Outline of Annual Research Achievements |
エゾアワビの産卵が低気圧や台風通過時に観察されることから、本研究では雨水に含まれる酸化物が本種の産卵を促すという仮説の検証を進めている(研究1)。また、酸化物を含む雨水の海底への到達の有無やタイミングは、水深によって異なることが想定される。そこで、本研究では、餌となる大型褐藻類(ワカメやマコンブ)の生育が本種の分布水深に与える影響も調査を進めている(研究2)。 研究1:予想に反して、雨水中に含まれる酸化物(過酸化水素など)の濃度では、本種の産卵を効率よく誘発することができなかった。塩分の低下などの生理的ストレスと過酸化水素を組み合わせた場合でも産卵を誘発させることができなかった。そこで、過酸化水素よりも高い酸化力を持つフリーラジカルが天然で発生する条件を検討し、これを水槽内で再現したところ約67%(20/30個体)の産卵率が得られた。 研究2:ドローンによる大型褐藻類のモニタリングと超音波テレメトリーによる本種の移動の追跡を実施した。得られたデータをGIS上で組み合わせ解析した結果、本種は大型褐藻類の群落内では移動距離が短く、群落から離れるほど長距離移動しやすくなる移動パターンを示していた。そこで、この移動パターンを再現した仮想アワビを空撮から得られた海藻群落内で移動させるシミュレーションモデルを構築した。このモデルにより本種の分布水深を推定した結果、大型褐藻類の生育が浅所域に限定された年では、分布が浅場に偏る傾向が見られた。一方で、海藻群落から一度離れた個体が放浪し、深場へ移動するケースも確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究1:研究当初の予想とは異なるものの、野外におけるアワビ類の産卵を促す鍵刺激の候補となりえる現象を絞り込むことができた。一方で、野外でも同様の現象が起こっているかは未確認であるため、今後の検証が必要である。 研究2:野外における移動パターンをシミュレーションモデルにより再現できる目途がついた。本モデルにおいて、アワビの移動距離を決定しているのは、海藻群落とアワビとの距離のみで、他の要因は考慮されていない。そのため、本モデルによって推測された本種の分布水深が、実際の分布水深を再現しているか否かを検討する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
研究1:フリーラジカルが産卵誘発に与える影響を検証した水槽実験においては、操作により水槽内でフリーラジカルが発生し、それが本種の産卵を誘発していると想定しているが、フリーラジカルの発生自体はモニタリングできていない。そのため、実験条件下において実際にフリーラジカルが発生しているのかを検証する必要があり、まずこの測定系を構築する。同時に、野外でのフリーラジカル発生状況をモニタリングするための測定系も構築する。
研究2:モデルによる分布水深の予測と実際の分布水深を照らし合わせる必要がある。そのため、いくつかの調査地点で大型褐藻群落の空間配置とその場所におけるアワビの空間分布に関するデータを取得し、シミュレーション結果と比較する予定である。シミュレーション結果と実際の空間分布が異なる場合には、モデルのパラメーターを見直す必要がある。
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Causes of Carryover |
予定していた調査が荒天のため中止となったため、次年度使用額が生じた。生じた使用額は、新たに計画した調査に必要となる資材の購入と旅費として使用する。
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Research Products
(2 results)