2020 Fiscal Year Research-status Report
アワビはいつどこで産卵するのか?:大気中の過酸化水素が産卵に及ぼす影響
Project/Area Number |
19K06217
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Research Institution | Fisheries Research and Education Agency |
Principal Investigator |
松本 有記雄 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水研機構(塩釜), 研究員 (60700408)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | フェントン反応 / フリーラジカル / 一斉産卵 |
Outline of Annual Research Achievements |
エゾアワビの産卵が低気圧や台風通過時に観察されることから、本研究では雨水に含まれる酸化物が本種の産卵を促すという仮説の検証を進めている(研究1)。また、酸化物を含む雨水の海底への到達の有無やタイミングは、水深によって異なることが想定される。そこで、本研究では、餌となる大型褐藻類(ワカメやマコンブ)の生育が本種の分布水深に与える影響に関しても明らかにする(研究2)。
研究1:荒天時に雨水や海水中で含まれうる濃度の過酸化水素(H2O2)と二価の鉄イオン(Fe2+;クエン酸でキレートした)を水槽に添加することで本種の放精放卵を促すことができた。既往研究では、酸化力が強いフリーラジカルがアワビの体内でプロスタグランジン(PG)の合成を促し、PGが卵の最終成熟や産卵行動を促すことが分かっている。Fe2+がH2O2によって酸化される過程で、フリーラジカルの1種であるヒドロキシルラジカルが発生する(フェントン反応)。このフェントン反応が、野外における本種の産卵を促す鍵刺激である可能性が示された。
研究2: 前年度に構築したシミュレーションモデルにより、エゾアワビの移動と大型褐藻群落のフェノロジーとの関係をシミュレーションした。本種が生息する三陸沿岸では、春から夏にかけて水深10m近くまで大型褐藻類が繁茂し、秋から冬にかけて深い方から大型褐藻類が枯死流失する。本種の産卵は9月から11月とされるが、その時期は大型褐藻類が枯死流失する時期で浅い場所にわずかに大型褐藻類が残っている状態である。シミュレーションの結果、大型褐藻類が消失した深い場所にいた多くのアワビが大型褐藻類が残る浅い場所へ移動する一方で、一部がより深い場所に移動していることが分かった。過去の発信機を装着したアワビも同様に深場へ移動することがあった。この深場への移動は、本種が匂い源に向かって移動できないことを反映していると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究1:水槽実験で得らえれた成果はすでに国際誌に投稿しており、公表に向けたプロセスが進んでいる。
研究2:アワビが自身と大型褐藻との距離に応じて移動距離を変化させるという簡単なルールに基づいて、本種の移動をおおむね再現できることが確認でき、当初の予想と合致する結果が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究1:野外で同様の現象が起こっているかを確認するためには、当初予定していなかったヒドロキシルラジカルの時系列変化を観測する必要があるが、寿命が短いヒドロキシルラジカルを水温のようにロギングする手法は確立されていないため、測定系を検討する必要がある。また、本研究で確認されたヒドロキシルラジカルによって、他の巻貝類や二枚貝類などの産卵を促せるかを確認する予定である。
研究2:結果を取り纏め、国際誌への投稿を進める。また、本モデルの資源評価への活用も検討する。例えば、アワビ類の資源動向調査にはアワビの移動を想定していないデルーリー法がよく使われるが、本シミュレーションでは漁場となる浅場に深場からアワビが移入してくることが示されている。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のため、国際シンポジウムの開催が延期され、さらに国内学会がオンライン開催となったため次年度使用額が生じた。生じた使用額は、当初予定していなかったヒドロキシルラジカルの測定と他の海産無脊椎動物の産卵誘発実験に使用する。
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Research Products
(2 results)