2020 Fiscal Year Research-status Report
The contribution of transient metals on the immunological reaction in crustacean.
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19K06221
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Research Institution | Setsunan University |
Principal Investigator |
増田 太郎 摂南大学, 農学部, 准教授 (40395653)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ヘモシアニン / フェノールオキシダーゼ / 甲殻類 / 黒変 / メラニン形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
甲殻類のフェノールオキシダーゼ(PO)は強いPO活性を有するメラニン形成反応の鍵酵素である。一方、ヘモシアニン(Hc)は酸素運搬タンパク質として機能するが、特定の条件下で変化しPOと同様の酵素活性を得る可能性が示唆されている。2020年度は、まずクルマエビ由来Hcを単一に精製、結晶化を行い、X線結晶構造解析による立体構造解析を行った。報告者らが以前に発表したクルマエビ由来pro型POの結晶構造と比較して、Hcの活性中心の構造は極めて類似していることを明らかにした。唯一の違いは、溶媒面接触面から活性中心に至る経路にあり、Hcではフェニルアラニン側鎖によりブロックされていたが、proPOでは基質の往来が可能であった。このフェニルアラニン残基は、甲殻類ヘモシアニンで広く保存されていたが、フェノールオキシダーゼと鋏角類ヘモシアニンでは、セリン、バリン、スレオニンなどよりかさの低いアミノ酸残基となっていた。鋏角類ヘモシアニンの一部のサブユニットは、ヘモシアニンのPO活性が見出される端緒となったものであり、この部分のアミノ酸残基の重要性を示唆する結果となった。 また、甲殻類血リンパ中のPO活性本体について再検証した。その結果、従来のHc調製法ではHcと体液中のPOとを分離することができず、硫安分画などからなる新たな方法で両者の完全分離に成功した。従来法のHc試料に認められるPO活性は体液中のPOに由来することが示され、一般的な実験条件下ではHcのPO賦活化は認められなかった。したがって、HcのPO活性賦活化については、本研究で明らかにした、Hc、POを完全に分離する精製法を用いて再検討する必要があると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は、ヘモシアニンの高分解能X線結晶構造解析に成功し、活性中心の詳細な構造を明らかにした。ヘモシアニンは、甲殻類、鋏角類の体液中に大量に存在するため、古くからX線結晶構造解析など構造生物学的研究の対象となってきたが、その分子種多様性のため、良質な結晶が得難いとされてきた。今回の成果では、従前の分解能を大幅に上回り、活性中心などの詳細な立体構造が明らかになった。この研究成果により、ヘモシアニンとその類縁タンパク質フェノールオキシダーゼの機能分化の構造的要因を明らかにできると期待される。 ヘモシアニンの詳細な立体構造が得られたため、報告者が先に明らかとした甲殻類POの構造と細部にわたる比較が可能となった。即ち、ほぼ相同な活性中心構造を持ちながら、強い酵素活性を有するPOと、酵素活性を持たない或いは微弱な活性に留まるヘモシアニンの両構造を比較することで、これまで不明であった活性の差異に関する分子機構に関する示唆が得られた。両者の活性中心の構造の違いは、一か所のアミノ酸置換にほぼ帰着され、ここで得られた知見をもとにヘモシアニンのフェノールオキシダーゼ活性賦活化の可否とその機構について研究を進める準備が整った。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度までに、甲殻類由来ヘモシアニン及びフェノールオキシダーゼの高分解能X線結晶構造解析に成功した。2021年度は、甲殻類免疫反応の中で中心的な役割を担うフェノールオキシダーゼ反応について、血球型フェノールオキシダーゼ、血リンパ型フェノールオキシダーゼ、ヘモシアニンの寄与を詳細に検討する。ヘモシアニンの精製法として、従来から行われてきた手法では、ヘモシアニンと血リンパ型フェノールオキシダーゼの分離が不十分であったため、2020年度までに明らかにした新たな精製法を用いて、個々を明確に分離することによりそのフェノールオキシダーゼ活性を明確にする。 X線結晶構造解析の結果、ヘモシアニンとフェノールオキシダーゼの活性中心における明確な構造的差異として、唯一ヘモシアニンにおけるフェニルアラニン残基が挙げられる(Phe371)。このフェニルアラニンを、フェノールオキシダーゼで見られるセリン、バリンなどのより小さい側鎖を持つアミノ酸に置換した変異型タンパク質を作製し、天然型および変異体の基質との相互作用、親和性について等温滴定カロリメトリー分析を行い定量的に評価する。フェノールオキシダーゼとヘモシアニンに見られる活性の差異は長年にわたり議論されており、本研究によりその分子機構の解明を目指す。 また、個々のタンパク質(血球型、血リンパ型フェノールオキシダーゼ、ヘモシアニン)について、病原体感染時の遺伝子発現について検討し、各々の免疫反応への応答を検討する。
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Causes of Carryover |
2020年度は、新型コロナウィルス感染症の影響で、計画していた遠隔地での甲殻類試料採集などが実施できなかった。また、緊急事態宣言の影響も受け、特に2020年度前期は実験の実施が制限される状況が生じ、研究費の執行が若干遅れることとなった。研究の実施計画自体は予定通り進捗しており、次年度使用額は2021年度に計画中の研究に充当する必要がある。 2021年度は、甲殻類免疫系の酵素、タンパク質群(フェノールオキシダーゼ、ヘモシアニン、フェリチン)などについて、病原菌侵入時の遺伝子発現などについて集中的に検討する。また、類縁タンパク質であるフェノールオキシダーゼとヘモシアニンの酵素活性について、基質との相互作用に着目し、本学に導入された等温滴定カロリメトリー装置を利用して定量的に評価する。
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Research Products
(1 results)