2021 Fiscal Year Research-status Report
ヒラメ・カレイ類の裏側黒化とストレス-網敷き飼育と卵の最適化による総合的な正常化
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19K06237
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
田川 正朋 京都大学, 農学研究科, 准教授 (20226947)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ヒラメ・カレイ類 / 無眼側黒化 / ストレス-コルチゾル系 / 網敷き飼育 / 短躯症 / 共食い / 黒ソブ / キンギョ |
Outline of Annual Research Achievements |
天然魚と異なり飼育魚には、体色や体型、骨格などに異常のみられることが多い。本研究はヒラメやカレイ類を主な対象として、飼育魚にみられる様々な異常を、ストレス-コルチゾル系によって、発症の機構を統一的に説明し、さらにストレスの低減によって飼育魚を総合的に正常化することを目的とする。今年度は以下の4点について検討を行った。 1)過去に採取してあったヒラメ個体を計測したところ、黒化の激しかった群のほうが短躯傾向は強かった。また、ある事業所の黒化程度の激しい群では、コルチゾル濃度と黒化程度には相関関係が見られた。これらは、ストレスがコルチゾルを介して、短躯症と黒化の両方の原因となっている可能性を示唆する。 2)黒化に及ぼす親魚の遺伝的影響について検討を行った。単一の親魚群由来の受精卵から育てられていた稚魚から、無眼側全域が黒化していた個体と正常個体を選別し、マイクロサテライトDNAの解析を行った。親子判別の結果からは黒化個体が特定父母の組み合わせのみから出現していたことが明らかとなった。すなわち、今回解析したヒラメの無眼側黒化については、親の遺伝的な影響の関与が確認された。 3)共喰いの起こる環境では特に小さな個体にストレスがかかっていると予想される。しかし、予想とはことなりシロギスでは骨格異常の発生にはサイズによる多寡はみられなかった。なお、骨格異常を有する個体が捕食されている可能性は排除できない。 4)他の黒化現象としてキンギョにおける黒ソブと呼ばれる異常な黒化の検討を開始した。体表の黒化部分の深度、発現場所のランダムさ、および出現場所が凸部であるなど、着色型黒化とは異なる特徴が明らかとなった。さらに、黒ソブは消失すること、および出現と消失には水温の影響が極めて強い可能性が明らかとなり、同じ異常黒化であってもヒラメの着色型黒化とは根本的に異なる現象である可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでから研究協力して頂いていた外部研究機関の担当者の方々に移動がなかった。そのおかげでコロナ禍で出張しにくい状況であっても、おおよそ当初の計画通りに研究を進展させられている。現在までの進捗状況は、ほぼ順調と判断している。 一方、ヒラメの無眼側黒化に及ぼす親魚の遺伝的影響では、特定の父母からの稚魚にのみ、かつ1/4の比率で黒化魚が出現していた。このことより、単純なメンデル遺伝による劣性ホモの黒化遺伝子の関与が示唆された。現時点では何とも言えないが、黒化遺伝子の特定という予想外の進展につながる可能性に期待して、次世代シークエンサーによる遺伝子の分析にも新たに着手した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで通り、学外の研究協力者の助けを仰ぎながら、いくつかの実験を並行して実施する。たとえば、マツカワの着色型黒化におよぼす網敷飼育の効果についての確認実験をおこなう。これは、仔魚期に病気や原因不明の斃死が発生した年度にのみ、ポジティブな結果が得られていることから推測すると、仔魚期に低密度で飼育されていた場合にのみ有効である可能性が高い。仔魚期の飼育状態が稚魚期以降になって初めて「目に見える差異」となって出現する現象であるが、網敷飼育による着色型黒化というだけでなく、いわゆる晩発効果の実験系としても非常に興味深い。そのため令和4年度には仔魚期の飼育密度を変えた確認実験を実施する。 一方、今後のコロナの感染の拡大によって、出張の禁止だけでなく、研究協力者による飼育実験が中止になることを非常に心配している。その場合は、過去におこなった実験のサンプルを新たな角度から分析することで、研究を進展させる予定である。たとえば、「現在までの進捗状況」に記した黒化遺伝子については、遺伝子分析を専門とする研究者に相談し、同定にむけた共同研究を開始したいと考えている。
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Causes of Carryover |
主な原因はやはり旅費の減少である。現地開催の予定であった学会がコロナの感染拡大防止のためにオンライン開催となった。また、マツカワのサンプリングに学生と北海道へ行く計画であったが、これも感染拡大を危惧して中止した。なお、この時のサンプリングは、幸い現地の共同研究者にお願いできたため、研究上の大きな支障とはなっていない。 生じた次年度使用額は、今後も出張が困難になる可能性を考え、京都での分析を増加させるための試薬や消耗品の購入に使用を計画している。また、黒化遺伝子の分析は当初計画していなかったものであるため、その分析費用にもあてたい。
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