2021 Fiscal Year Research-status Report
標高帯モデルに基づく山地農業に対する気候変動の影響解明と計画的適応策の構築
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19K06253
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山口 哲由 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特定助教 (50447934)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 気候変動 / 山地農業 / チベット / 温暖化適応策 / SDGs |
Outline of Annual Research Achievements |
気候変動がインド北部の山岳地域に位置するラダック管区の農業に及ぼす影響を検証するため,申請者は,調査対象であるD行政村に,2010年から2017年までの間,標高が異なる4地点に自動温度計と自動カメラを設置し,気温データと農業圃場の連続写真のデータを収集してきた。本年度は,経年的な気温データから,調査村における気温の逓減率や年間の気温変化を把握するとともに,写真データの詳細な分析から農事暦や降雪状況の把握を試みた。一般的なデジタルカメラで撮影された写真データから,植生の活性度の変化を把握するため,小熊ら(2019)の手法を参照にしながらPythonのプログラムを開発し,これを用いて分析をおこなった。 気温データの分析からは,調査村では,冬よりも夏の気温の差が大きくなる傾向はあり,集落内での標高およそ1000mの差は,夏場の最高気温に8℃ほどの違いが生じるとともに,平均気温が0℃を上回る時期には1ヶ月以上の差があった。それゆえに播種の時期も集落内で差が生じており,気温差とほぼ同様の1ヶ月の播種時期の遅れにつながっていた。また,こういった温度環境の違いは,オオムギやエダマメの栽培において登熟までに要する期間にも影響が見られ,標高4000mの集落では,標高3000mの集落よりも,収穫までにさらに20日間の期間を必要としていた。 これらの気温と標高と作物栽培の関係性を踏まえながら,気候変動に関する将来予測のシナリオを組み合わせることで,山地社会における気候変動が農業に及ぼす影響の全体族の把握を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,山地における気候変動が,標高帯ごとの農業の様式にどのような影響を与えているのかを明らかにするため,インド北部ジャンムー・カシミール州に位置するラダックを対象として調査をおこなってきた。 具体的な調査対象してきたのはD行政村であり,すでにおこなってきたイギリス統治期の地籍台帳の分析により,100年前の農業の状況をかなり詳細に明らかにできた。加えて,申請者はこれまでに現地調査に基づいて現在の土地利用図を作成しており,これらの資料を組み合わせることでこの100年間の変化の概要を把握できた。 本年度は,地籍台帳や土地利用図の背景にある温度環境を詳細に把握する目的で,温度と写真のデータの分析を進め,気温と標高と作物栽培の関係を詳細に把握できた。これらの資料に全球規模での気候変動を巡るシミュレーションを組み合わせることによって,山地農業の変化を体系的に把握する取り組みを進めることができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度も調査に関する状況を見通すのは難しい。一方で,ワクチン接種を前提とした渡航環境も整備されつつあるので,次年度中に海外調査をおこなう機会を是非とも持ちたいと考えている。そういった場合に,限られた滞在時間であっても効率的に調査を実施できるように,これまでに得られた資料を再分析し,確認すべきポイントの洗い出しを進める。 一方で,申請者が蓄積してきたデータと,近年撮影された衛星画像を分析に加えることによって,調査対象村における農業とその変化をより詳細に把握できる可能性があるので,この視点に立った研究をさらに進めたい。また,ラダックへの気候変動の影響を把握する際に,全球規模でのシミュレーション結果を使用できる可能性があるため,そういった視点も踏まえた分析も進める。このように既存のデータを組み合わせていくことで,山地社会の農業に対する気候変動の影響を総合的に把握できると考えている。
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Causes of Carryover |
本研究は,インド北部の山岳地域であるラダックをを対象とした現地調査を主体として計画されたが,2020年度以降は新型コロナ感染症による影響で同地域への渡航が制限されており,計画していた現地調査の多くが実施できなかったために次年度使用額が生じた。
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