2019 Fiscal Year Research-status Report
米生産調整見直し下での米需給調整の地域対応と効果に関する研究
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19K06276
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
椿 真一 愛媛大学, 農学研究科, 准教授 (20404204)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
堀部 篤 東京農業大学, 国際食料情報学部, 准教授 (60709640)
佐藤 加寿子 弘前大学, 農学生命科学部, 准教授 (80294908)
李 侖美 岐阜大学, 応用生物科学部, 准教授 (80465939)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 主食用米の作付減少 / 不作付地の拡大 / 農業構造変動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の課題は,水田土地利用型大規模経営を対象に,生産調整政策の転換による主食用米や戦略作物等の作付状況の変化など水田土地利用の実態と担い手経営の収益・経営基盤を明らかにし,生産調整政策の見直しが「意欲ある担い手」の農地集積につながり農業構造改革が進むのか,その条件や課題は何かを検討することである. 今年度はまず、2018年の生産調整政策の転換をうけて、18年以降、都道府県別に主食用米の作付けの変化や転作作物の作付態様がどのように変化したのかを統計的に確認した。さらに、西日本のいくつかの地域において,生産調整政策の転換の下での大規模水田作経営の経営実態を個別経営と集落営農組織で聞き取り調査をおこなった.こうした研究結果は、農業問題研究学会に論文投稿しており、現在論文審査中である。 他方で当初の予想とは異なる次のような問題がでている。2018年に生産調整が廃止されたが、当初は不作付地であった水田にも米が作付けされるようになり、米生産が拡大するとの見通しであった。しかしながら2019年には全国の主食用米の作付面積が大きく減少した。これまで増産傾向にあった米主産県でも減少が拡大している。不作付地も以前より拡大し、生産調整政策の転換は水田土地利用の後退に歯止めをかけることはできなかったといえる。当初の予測とは異なる動きについて、地域によっては主食用米の経済性低下、あるいは担い手の脆弱化の進行があるものと考えられる。生産調整廃止の下で、土地利用率の向上と稲作農家の生き残りをどこに見いだしたらよいかが問われるようになってきた。このように生産調整廃止によって稲作農家の経営展開が不安視されるなか、国内外の事例からの考察が求められるとの考えにいたっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
生産調整政策の転換は地域ごとの米の生産構造に少なくない影響をおよぼしていると考えられるため、こうした影響を把握するために現地調査をおこなった。愛媛で行った調査では、担い手経営は積極的な転作と裏作麦に取り組むことで水田利用率を高め,収入を確保するという経営展開を図っており,規模拡大にも意欲的な経営が多かった.こうした対応は海外の事例にも共通する。また、飼料用米の作付けが大きい岐阜県において、飼料用米の取り組みの背景と実績を分析し、生産調整の見直しと関係なく飼料用米の生産は継続する意向であることを確認した。 他方で東北・新潟では、高齢化、担い手不足が進行する中、稲作経営の規模拡大が進んでいるが、それは生産調整対応の結果ではなく、離農農家の依頼を受けた借地拡大であった。大規模経営体の経営にとっては、生産調整政策の変化だけでなく、耕地分散や賃借料との関係が経営展開にとって大きな課題となっていた。そうした中で、20ha以上層の大規模層でも本格的な借地規模拡大の経済的条件が失われ,さらに7ha未満層では農業収入で家計費を充足できなくなる経営危機が予想されることも明らかとなった. 生産調整の転換は大規模経営の農地集積の鈍化や水田土地利用の後退にはつながっていない地域もあることが明らかとなったが地域条件に大きく左右されることが明らかとなった。つまり、2019年度の分析結果では、米生産調整の見直し下で,生産調整対応に地域差がみられるのは主食用米と転作作物および裏作作物との収益差や、担い手の賦存状況と兼業農家の離農、賃借料水準などの地域の農業構造条件に差異があるからと考える.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は,国による主食用米の生産数量目標の配分が廃止されたあとの主食用米の需給調整の実施体制と需給調整機能を吟味し,水田利用・作目の変化を実態調査から明らかにすることで,生産調整の実効性を高める諸条件を明らかにすることである. 2019年度の分析結果をふまえると、米生産調整の見直し下で,生産調整対応に地域差がみられるのは主食用米と転作作物および裏作作物との収益差や、担い手の賦存状況をはじめ地域の農業構造条件に差異があるからと考えている.そこで2020年度は,水田二毛作が可能な地域(福岡、佐賀、愛媛、岐阜、茨城)とそうでない地域(青森、秋田県、新潟県、石川県など主要な米産地)を対象とし、これら地域でも担い手が多く存在する地域と少ない地域を選定し、地域を比較することで生産調整の実行可能性を検証していく。 当該地域を対象に,担い手の賦存状況や経営類型別農家数,水田利用・作付の変化など農業構造の特徴を整理し,生産農家への聞き取り調査によって経営内容や作付体系(水田利用・作目)の変化,事業戦略等を明らかにする.さらに、生産調整制度の変更後の米価水準や水田賃借料への影響等も分析することで、生産調整政策の変更による影響を総合的に検討する。また、2018年から2020年にかけての生産調整への取組の変化を、地域農業再生協議会を含む推進体制とその結果である実績から明らかにし、県レベル及び地域レベルで直面する課題を明らかにする.
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Causes of Carryover |
調査結果のデータ整理に人件費を計上していたが、予定よりも調査数が少なかったため、代表者・分担者が各自で入力・整理作業をおこなった。そのため、資料・データ整理に関する人件費の支出が計画よりもかからなかった。また、学会開催地の関係で、旅費が少なくすんだことも影響している。次年度は調査数を少し増やすこととしており、その分だけデータ整理量が増えると予想されるため、前年度繰り越し分をデータ整理人件費に積みます予定である。
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Research Products
(3 results)