2021 Fiscal Year Research-status Report
150 Years of the Agriculture in Vietnam: An Attempt to Clarify the Mechanism of the Agricultural Development Focusing on Cropping Pattern Change
Project/Area Number |
19K06279
|
Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
高橋 塁 東海大学, 政治経済学部, 教授 (30453707)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | ベトナム / 農業発展 / 作付選択 / 作付構成 / 経済史学 / 仏領インドシナ / 米穀経済 / 社会ネットワーク分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、(1)ベトナムの植民地期から現在に至るおよそ150年間の作付構成指標を作成し、その変動を通してベトナム農業の長期的発展の特徴とその要因を探ること、(2)現代ベトナムの世帯(家計)レベルのミクロデータを利用することにより、ベトナムにおける農家の作付選択行動の要因を明らかにすること、以上の2点を目的としている。2020年度は上記(2)に注力して研究を遂行したが、2021年度は(1)の歴史分析に力点を移して、研究を実施した。特に植民地期の米の作付、流通については成果をあげることができた。具体的には(a)サイゴン商業会議所(Chambre de commerce de Saigon)による籾流通データ(各稲作地から精米所集積地チョロンまでの流通量)の発見と利用、(b)米の作付が米市場のパフォーマンスに依存することを踏まえた社会ネットワーク分析(Social Network Analysis: SNA)の適用など、新たな情報や手法の応用があげられる。 特に(b)のSNAの導入は、2020年度に統計関連学会連合大会で報告した上記(2)に関連した研究から想起したものである。そこでは農家の作付選択は近隣農家の作付構成に影響を受けるネットワーク効果が明らかとなった。ゆえに近年社会科学分野でも注目されている社会ネットワーク分析を応用する考えに至った。これは当初の計画では想定しておらず、研究を進める中で浮かびあがってきた視点である。 2021年度はデータが少ない植民地期の歴史研究に主眼をおいたため、村内の作付構成の普及をSNAで分析するのではなく、比較的情報が豊富な米の生産、流通に焦点をあて、メコンデルタにおける米作付の空間的分布やその変化、米流通構造をSNAで分析し、植民地期ベトナム南部の米市場の中心や、稲作地の空間的変化などを明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
既に「研究実績の概要」で述べたように2021年度も依然として新型コロナウイルスの感染が国内外で確認されており、その影響で海外渡航がかなわなかった。このため研究の進捗状況はやや遅れてはいる。しかし成果は着実に出ている。 2021年度はベトナムの長期農業発展に関連し米作付に注目した研究を行った。前年度収集したBulletin economique de l'Indochine等の重要資料から米の収穫、作付面積等、作付構成に必要な情報入手が期待されたが、1910年代を中心に欠損が多く、作付構成の時系列を得る困難に直面した。そこでデータが得られる年次を中心にベンチマーク年を決めて、適宜地図などの空間データも援用しながら推計を行っていく方針をたてた。また空間分析を精緻にしていく手法として、「研究実績の概要」で述べたように社会ネットワーク分析を活用する試みを行った。社会ネットワーク分析の導入については、2020年度の研究に端を発している。すなわちベトナムの世帯レベルデータ(2008年)から、農家の作付選択が近隣農家の作付構成から影響を受けたことが明らかになり、作付選択のネットワーク効果が示唆された。 2021年度は、社会ネットワーク分析を植民地期の米作付、流通に応用することで、(1)植民地期ベトナム南部(コーチシナ)の米市場構造とその発展が、メコンデルタ西部の稲の作付と密接に関連していること、(2)従来、輸出用精米所が集積しているチョロンがコーチシナの米市場の中心とされたが、稲作地からの籾の流通ネットワーク構造から必ずしもそうとはいえないこと、が明らかにされた。すなわち植民地期ベトナム南部の稲の省別作付構造が当時の域内米市場構造(流通ネットワーク)と大きく関係していることが明らかにされた。 この研究成果は2021年12月に開催された国際学会ANGIS Tokyoにて報告された。
|
Strategy for Future Research Activity |
既述のように長期農業発展の歴史統計分析については、海外文書館、図書館のデジタルライブラリを通じて、これまでも多くの資料を収集し、取り組んできた。これらの資料を精査した結果、サイゴン商業会議所の報告に各稲作地(省別)から輸出用精米所の集積地であったチョロンまでの籾の流通量に関する情報が掲載されていることを見出した。これはコーチシナ(植民地期ベトナム南部)域内における米・籾市場の発展と各省における稲の作付が関係していることを示す重要な情報である。 また各籾集散地が水路を通じて結びつき、その水路網における籾の流通経路の情報も得られたことから社会ネットワーク分析(SNA)の適用を行い、コーチシナの米市場構造と米市場の中心を明らかにした。このように空間面での分析に精緻さを見出すようになったのは、当初想定していたよりも作付構成指標の基礎となる農作物の作付面積データを連続した時系列で得ることが難しいとわかったためである。それゆえ、米、および米以外の作物の作付構成については、データが得られる年次をベンチマーク年としてその年次の空間面での情報の精緻化を図り、それをもとに作付構成指標の時系列を推計して作成していくアプローチを進めていく。 農家の作付選択メカニズムの研究については2020年度実施の研究により農家の作付選択に対する近隣農家の作付構成の影響、すなわちネットワーク効果が考えられたことから、このチャネルの研究に焦点をあて、社会ネットワーク分析の手法を取り入れながら、明らかにしていく。またあわせて現代ベトナムの世帯レベルのパネルデータ等を利用した頑健な分析を引き続き実施していく。
|
Causes of Carryover |
既述のように2021年度もまた新型コロナウイルスの感染が国内外で見られたため、海外渡航がかなわず、研究に遅延が生じている状況である。そのため海外の文書館、図書館における資料調査、ベトナム農村での調査が2020年度に引き続きできない状況にあった。したがって旅費、人件費・謝金などの費目で使用する機会がなかった。 2022年度は昨年度に引き続き国内外の学会への参加、英文査読誌への投稿料、英文校閲費などに使用し、研究成果の発表に力を入れる予定である。また新型コロナウイルスの感染が国内外で落ち着いてきていることもあり、2022年度は海外文書館、図書館での資料調査や、ベトナム中部農村での調査の実施可能性が高まってきている。さらにはこれまでデジタルライブラリなどから収集した大量の資料の中には、データベース化、活用ができていない情報もある。こうしたデータの利用により分析精度をあげることも2022年度の研究で必要となろう。以上のように2022年度はこれまで利用する機会を十分に得られなかった旅費、人件費等を使用する機会が大幅に増えると予想されたため、次年度使用額が生じた次第である。
|