2022 Fiscal Year Annual Research Report
篤農技術採用者の意思決定メカニズムの解明:水中疎植栽培法を対象にして
Project/Area Number |
19K06283
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
安江 紘幸 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 東北農業研究センター, 上級研究員 (40508248)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 篤農技術 / 小集団活動 |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度は、薄井農法の導入効果や導入リスクを実証的に解明した。導入効果として最も顕著な点は、収量向上である。薄井農法を導入した会員は、就農年数や導入時期に関わらず、導入前と比べ1.2倍の収量を得ている。また、地域内の平均収量と比べても半俵ほど多く、高位安定した収量を維持している。次の効果としては、会員同士の競争意識と生産意欲の促進である。この点は、年1回開催される全国大会での会員同士の会話内容をテキストマイニングすることで明らかになった。一方、導入リスクとしては、慣行栽培に比べて2倍以上作業の手間と1.5倍の資材費がかかることである。薄井農法は、苗踏みや土壌改良資材、深水管理、追肥など、慣行栽培にはない管理作業が約3倍あり、労力が多くかかるばかりでなく、肥料や土壌改良資材等の費用も増えることが明らかになっている。そのため、薄井農法は、収量が慣行栽培時に比べて会員平均で約1.2倍の収量水準であることからも、導入以前に比べて収益向上を見込めないことが明らかになった。 以上のことから技術普及の面では、収量向上と生産意欲向上の効果をもたらす半面、収益向上に寄与しないことが導入リスクであることが指摘できる。ただし、薄井農法は、全ての会員の収益向上に寄与していないのではなく、基本的な技術の上に薄井農法を学ぶ中で得た知識を実践する会員歴の浅い農業者や若い年代の農業者の収益改善に寄与している。具体的には、産直で消費者が求める米に対して納得させられる答えを提供することができることで値段交渉が円滑に行えるようになったからでる。こうしたことから、薄井農法は、手間や資材費が増えたとしても産直のケースのように販売面等のビジネス面も補完することが考えられる。このビジネス面の詳細については、今後の課題としたい。
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