2020 Fiscal Year Research-status Report
開発途上国における農民参加型灌漑管理による効率的・持続的灌漑農業の実現手法
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19K06288
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
石井 敦 筑波大学, 生命環境系, 教授 (90222926)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 灌漑管理 / アフリカ / 水田灌漑 / 水利組織 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究協力者のPaul Ayella氏(筑波大学生命環境科学研究科博士課程2年)が、2020年4月1日~9月4日にかけてウガンダ国に調査出張し、研究対象地区である大規模灌漑地区(Doho地区、Kbimba地区、Naigomba地区)の現地調査を行った。ここで得られたデータを用いて、以下の研究を行った。 1)Doho地区: 11ある灌漑ブロック間の番水方法が20年間で5回変更されたことがわかった。1995年と2017年の配水方法について、河川流量データを用いて、各ブロックに配水される用水量をシミュレーションによって求めた。結果、2017年の方が、ブロック間の配水量の差が小さく、平等配水に向けた配水の改善がなされたことが明らかになった。また、そのプロセスを現地の聞き取り情報により分析し、日本と同様、受益農民からの要望を受けて水利組織が変更を決定する仕組みが機能していること、その際、現地の政府職員による監視・指導が重要であることが明らかになった。 また、灌漑ブロック内の水利費の支払い状況のデータの分析より、どのブロックもブロック内の小用水路の下流部の水田で、水利費の未払いが有意に多いことが明らかになった。 2)Naigomba地区: 大規模な谷地田の上流から下流の水田について、その水収支を、月別降雨量のデータを用いたシミュレーションによって求めた。また、昨年度に引き続き、上流から下流の5つの集落で用水利用および稲作についてのアンケート調査を行い、水収支の結果と対応させて分析した。結果、上流部の用水不足、下流部の洪水被害があり、それによって、特に下流部で農民の肥料使用が少なく、収量が低いことが明らかになった。 3)Kibimba地区: 昨年度設置した幹線用水路および圃場の流量計のデータを入手した。現地の稲作の経営が困難となったため、稲作は中止され、1か月分のデータを入手するにとどまった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)当初計画していた大規模水田灌漑地区の水管理実態と、配水の平等性・不平等性については、Doha地区の分析によりほぼ明らかになった。灌漑ブロック間の平等配水が実現し、かつ、つねに改善されていること、これを可能にしている水利組織の用水管理システムについての分析をほぼ終えている。一方、灌漑ブロック内における不平等配水についても、その実態はほぼ明らかになり、それと水利費未払いとの関係も明らかにできている。また、この地区の新たな課題として、農民参加型灌漑管理(PIM)に係わる政府の関与の仕方について、日本の豊川用水地区と極めて似ているシステムが働いていることがわかり、新たにこの地区をJoint Water Managementの視点からも分析を進めることとした。以上は、2021年8月開始予定の農業農村工学会大会講演会で発表する予定で、すでに講演要旨を学会い提出している。以上より、テーマに関しては、ほぼ予定通りに研究が進捗しているものと判断している。 2)昨年度、新たに研究計画課題に加えたNaigomba地区での大規模な谷地田地域の水田の水利特性と営農については、現地での追加アンケート調査を行い、2020年8月の農業農村工学会大会講演会で発表した。その後、現地の日雨量データを得ることができ、現在、このデータを用いて上流~下流の水田の水収支について、シミュレーションによる分析を行っている。 3)また、同様に昨年度、新たな研究課題に加えたKibimba地区での地下水も含めた用水の反復利用システムの分析については、現地でのデータとして得られたのは1か月分のみで、今後の継続的な調査は困難となった。 全体として、1)2)に必要なデータはほぼ得られており、1)2)ともおおよその分析を終えており、今後は詳細な分析を行う状況なっている。以上から、当初の計画よりも現状は進捗しているものといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度(最終年度)は、主として「現在までの進捗状況」の1)2)について、すでに得られたデータをもとに、分析と取りまとめを行う。必要な補足データは、現地の灌漑事務所等と電話面談またはメールで入手する。 1)Doho地区について: 灌漑ブロック間の平等な用水配分について、番水方法の変更とそれによる平等配水の改善、それを可能にした配水方法変更のシステムについて、分析結果をとりまとめる。また、Joint Water Managementに関する比較対象地区として国内で水資源機構が用水管理を行っている地区(豊川用水地区等)での現地調査を行い、配水方法の決定等について、Doho地区と比較分析を行い、Doho地区での政府関与の必要性と効果について検討する。以上をとりまとめ、学術誌に投稿する。また、灌漑ブロック内の不平等な配水状況とその改善方法についての分析結果をとりまとめ、学術誌に投稿する。 2)Naigomba地区について: 日雨量データを用いた谷地田の水収支分析を行い、昨年度までの分析を補強し、とりまとめる。また、日本国内の谷地田地区を対象に、同様の水収支分析を行い、灌漑施設の整備状況を求め、Naigomba地区の灌漑開発方法について検討を行う。
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Research Products
(1 results)